+ ACT.01  出会いのとき ( 1/2 ) +
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普段から、賑やかという表現は不釣合いだが
住む場所、職、家族 ...
それぞれ理由は違えど、何かを失った者達でごった返している とあるスラム街

そんなスラム街の匂いが今日 違っていた






 ACT.01  出会いのとき






バタバタと、何人もの足音が周囲に響き渡る。
その者達は皆、銃やナイフ等の武器を手にし、何かを探している。
「なんだぁ…今日はいつもより物騒だなぁ…」
「何があったのかしら…」
そんな、普段とは異なった様子を見た人々の声が、あちこちから聞こえてくる。
しかし、その騒ぎの中心である何人もの男達には、そんな周囲の声はただの雑音でしかなかった。

「絶対にあの餓鬼は逃がすな。あのデータだけは何があっても取り戻せ!」

そんな、怒号と化した男の声が、周囲に轟く。



*



「はっはっ……っ……はぁっ………」
薄暗い路地裏
辺りには古びた家具や、様々なゴミが散乱しており
腐臭にも似た臭いが周囲に立ち込めている。
そんな場所を、1人の少年が息を切らしながら走っている。
そして、ある程度の距離を全力で走ると、少年は周囲をよく確認し、ドラム缶の影に身を隠す。
「はっはっはっ……―っ………」
荒れた呼吸を整えるのに懸命になっている少年は
ズキンという刺さるような痛みを感じ、左肩から流れる赤い液体に気が付く。
「ちっ………」
その傷を見るなり舌打ちし、腰に付けているポーチから救急道具をいくつか取りすと、少年は慣れた手つきで手早く消毒し、包帯を巻く。
簡単な治療を済ませると、少年は何かに気付いたのか、ハッと目を見開き、顔を上げ、再び周囲の様子を探り始める。
いくつかの足音が耳に入ってくるが、少年は慌てる様子もなく、慎重に周囲の状況を理解しようと努める。
そして、周囲が静かになると、身を潜めていた場所から立ち上がり、再び走り出した。



*



「んでさーそいつってば、生意気にも俺を足でコケさせてさー」
「ばっかじゃねーのお前。普通そんな手に引っ掛かるかよ!」

スラム街の中心地とも言える、スラムマーケット。
当然、スラム街のマーケットだけに品揃えは良くは無い。
日によって入荷する物も量もまちまち。
出店数もその日によって変動し、毎日順調に稼いでいる店など皆無に等しく、殆どの人が、その日暮らしの生活を送っている。
それでも此処に住んでいる者達は、皆、それぞれの方法で得たお金で客としてこのマーケットを訪れ、必要な物を購入したり、出店者として品物を売って生活費や経営資金を調達したりと、それぞれに合った方法で、1日1日を生きていた。
そんなマーケットの中を、4人の少年達が楽しそうに話をしながら歩いている。

「馬鹿にすんな!アレだったらお前だってぜってー引っ掛かってる!」
「馬鹿でどんくさいお前と一緒にすんなボケ!」
「ああ言えばこう言うな、ホントにお前は!」
「うっせー!負け犬は黙ってろ!なぁ、斎!」
楽しそうに…と言うより、内2人の言い争いで騒がしいだけの小さな集団。
そんな、言い争いの当事者の1人である少年が、1番前を歩いている体格の良い別の少年の名前を呼ぶ。
「お前ら、ちったー静かに歩けねぇのかー?」
特に2人の言い争いを止める様子も無く、流すかのように"斎"と呼ばれた少年は言葉を発する。
「うわーーー斎つめてー!」
「つめてーつめてー」
そんな斎の薄い反応に、わざと大袈裟に悲しむ2人の少年達だったが、当の本人は、周囲を探るかの様に軽く見渡す。
「斎さん…今日は何だか様子が可笑しい…ですよね…?」
そんな斎の様子に気付いた、小柄な少年が、少々怯えた様子で話掛けてくる。
「― ああ。ピリピリしてんな…」
眉を微かに顰め、斎は答える。
そんな話をしている斎達の近くにも、先程から何人も例の男達が駆けて行く。
その男達を更に怯えた様子で横目で見ると、小柄な少年は続ける。
「"餓鬼を逃がすな"って言ってましたけど…何で子供相手にあんな大人数の大人達が…」
「まぁ…それなりの事情ってもんがあんだろー。
でも、どうせ俺等には関係ねぇんだから、んなビクつかなくても平気だって、優斗!」
「痛っ!」
斎は、先程からビクビクと怯えている少年 ― 優斗 の背中を大きな手で叩き、勇気付ける。
「そうだそうだ!俺等には斎がいんだから!」
「そうそう!斎が居れば安心安心!」
「何だぁ?アンスズとパース、喧嘩してたんじゃねーのかよ。」
先程まで喧しく言い争っていたアンスズとパースだったが、何時の間にか2人とも笑顔になり、似たような事を口にしている。
「けっ…喧嘩するほど仲が良いって言うもんね…」
未だヒリヒリと痛むのか、少々涙ぐみながらも、優斗は微笑みながら言う。
「ま、そんなトコー!」
「そんなトコー!」
ガハハと笑いながら、2人は顔を見合わせながら優斗に答える。
「んな事よりお前ら、ちゃんと買ったもん、あるんだろうな?」
大通り(マーケットのある通り)から、人気の少ない路地裏に入ると、斎は話題を変える。
「あるに決まってんだろー!」
「俺等は優斗みたいに、何処かに落としてきたりなんてしないぞー!」
2人はそう言うと、それぞれ1つずつ手にしている買い物袋の中を
ガサガサと確認し始める。
スラム街、という事もあり、此処の治安は良くない。
昔から此処を住処としている者達は気がよく、大らかな者達が殆どだが、他所からやって来る者も少なくはなく、店に出している品物や、購入した物がスラれたり、強引に奪われたりする事も決して少なくはなかった。
そんな理由もあり、斎達はいつも複数人で買出しを行っている。
「あ…歩きながら確認してると…何かにぶつかったりして危ないよ………?」
おずおずとした様子で、優斗は買い物袋を確認している2人に忠告する。
「だーいじょぶだーって」
「少なくとも、此処に置いてあるゴミとか、そんなんでは転ばない。」
「此処は俺等の庭だぞ?自分の庭だぞ?んなトコでコケっかよ。」
「かよー。優斗の心配性ー」
こんな様子で、アンスズとパースは優斗の忠告は聞かず、ガサガサと、買い物袋のチェックを続けていた。
「あー………」
「大丈夫だって言ってんだ。ほっとけ。」
ポンッと、斎は2人を尚も心配する優斗の頭に手を乗せ、明るい口調で言う。
「う…うん………」
これ以上自分が何を言っても、2人が自分の言葉をきかない事は、既に分かり切っているだけに、優斗は、斎の言う通り放っておくしかなかった。
「コケたらコケたで自業自得だろ。」
「…でも…上から何か落ちてきたら…危ないよ……」
「上……?あはは!何だよそれ。」
急に予想もしなかった言葉を口にした優斗に、斎は大きな口を開けながら笑う。
「そんなに笑わなくてもいいと思う…」
「そうだな、そうだなー。上から何か落っこちてきたら面白い ―― …」
そう言い掛けた次の瞬間
斎はふと見上げた先で

― 目が合った ―

「うわぁ!」
「もぎゃ!」
目が合ったと同時に
前方から情けない声が2つ、耳に入ってくる。
「………」
「……………」
斎と優斗は直ぐに足を止めると口をポカンと開け、目を点にしたまま、目の前に広がる光景を視界に入れる。

「いでーいでーいでーーー!」
「重いー重いー重いー!」
「―…っ………」
目の前に広がる光景―
買い物籠から飛び散る品々
地面に伏せ、2人に押し潰されているパース
パースを押し潰し、もう1人の塊に押し潰されているアンスズ

― そして ......

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