+ ACT.04  握れぬ掌 揺れる想い ( 3/3 ) +
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「す…凄いね、朱羅君!」

男が立ち去ってから
今、自分の目の前で起こった事を整理するのに多少時間はかかったが、理解出来た瞬間、瑪瑙は瞳を輝かせて朱羅に駆け寄って来た。
「1人で何をしている」
朱羅は、自分が昏倒させた男2人を目立たない路地裏に隠すと、自分の置かれている立場を忘れている瑪瑙に対し、冷たい視線を向けながら問う。
「あ…えっと…朱羅君を迎えに来たんだけど…途中で斎君達とはぐれちゃって…」
朱羅の視線で気が付いたのだろう。
瑪瑙はハッと、自分の置かれた立場に気が付き、申し訳なさそうな色を乗せた表情で答えた。
「何故、俺を迎えに来る必要がある」
瑪瑙から発せられた言葉に対し、朱羅は変わらず、冷たい口調で問い続ける。
「だって、一緒にいるって約束したじゃない。」
そう答える瑪瑙の表情は、暖かく優しいものだったが、何処か、頑なで譲らぬ、真っ直ぐな意思が感じられた。

「1度決めた事だ。男に二言は無いだろ!」

「斎君!」
片腕を腰に当て、少々張り上げた声を響かせたのは斎だった。
「瑪瑙さん!無事だったんですね…!良かった…」
ぱたぱたと、斎の後ろから駆け寄って来た優斗は、自分達とはぐれた瑪瑙の無事を確認し、ほっと胸を撫で下ろす。
「心配掛けて御免なさい。ちょっと危なかったんだけど、朱羅君に助けてもらったの。」
自分の身を案じてくれた優斗に
瑪瑙はし訳なさそうに、しかし何処か嬉しそうに笑い掛けながらそう言った。
「そうですか、朱羅さんが…。有難う御座います、朱羅さん」
優斗もまた、瑪瑙と同じ様に笑い掛けながら、感謝の言葉を述べる。
「ありがとな、朱羅」
瑪瑙の無事を確認し、ほっと胸を撫で下ろしながら、ぽん、と瑪瑙の肩に手を乗せると、斎は安心した表情で朱羅を見る。
「それに、やっとお前を見付けられた」
瑪瑙の頭に乗せていた手を、朱羅に伸ばす斎だったが…

「俺に関わるな」
その手を払い、朱羅は斎の目を見てそう言った。

「自分が厄介者だからって?確かに厄介もんだよな、お前は」
斎は、ハハッと笑いながら続ける。
「でもさ、仕方ねぇじゃん。出逢っちまったんだからさ」
その言葉には、色んな意味が込められていた。
斎自身にも理解出来ない、色んな想いが込められていた。
色々考えてはみたけれど、結局は纏まらなかった。
しかし、纏まらなくていいのだと、気が付けばそう思うようになっていた。
今、無理に説明をつける必要が何処にある?
出逢って間もないというのに、一体何をまとめ、説明付ければ良いのだろうか。

そんなこと
これからゆっくりやっていけばいいじゃないか

「人生一期一会って言うだろ?何かさ、お前と出逢ったのも何かの縁だってそう思う訳ですよ、斎さんは!」
そう言いながら、子供のような無邪気な笑顔を見せる斎。
そんな斎を見る瑪瑙や優斗の表情もまた、嬉しそうだった。
「お前がBloodyHoundに追われる身であっても、何処の誰かも分からなくても
俺や瑪瑙や優斗は、お前を放っておけないんだよ、朱羅」
ぽんっと、朱羅の頭に斎の手が乗る。
「正直、未だ皆がお前を迎えてくれるとは言い切れない。…でも、俺が責任を持つ。
だから、一先ず俺等のとこに来い」
わしわしと朱羅の頭を撫で回す斎。
「私も、朱羅君と一緒にいたいし、朱羅君の事、もっともっと知りたい」
ぎゅっと、朱羅の両手を握る瑪瑙。
「そういう事です、朱羅さん。帰って来てくれますよね?」
笑顔で朱羅を迎える斎と瑪瑙を見ると、優斗も優しく微笑みながら朱羅に問い掛ける。


自分でも どうして良いのか分からなくなっていたのだと思う


もっと自分の事が知りたいと
そんな事を言う者がいる事が信じられなかった

でも 気が付けば そんな人達に対し
何処か安心感のようなものを抱いている自分がいた

何故…?
今まで1人で生きてきて こんな経験はなかったのに…

だから どうして良いのか分からなかった

― いや 今でも分からない

でも ―――


「…邪魔になるようなら、すぐに出て行く」


分からないのなら
その応えが見付からないと気持ちが悪い

そんな理由だったとしても
どんな理由だったとしても

多分 自分はこの場所に この人達に
何か特別なものを感じているという事だけは 認識する事が出来た


「よーっし物分りが良いな、朱羅!」
「―っ………」
先程よりも力強く頭を撫でる斎に、朱羅は表情を曇らせる。
「良かった…本当に良かった……!」
瑪瑙はそう言いながら朱羅の手を握る。
スキンシップを好む斎や瑪瑙に対し
朱羅は相変わらず苦手意識を拭いきれないでいたが、特に抵抗することもなく、頭を撫でられ、手を握られたままでいる。
「じゃー…帰るか!」
朱羅の頭を撫で回していた手をパッと離すと、斎は軽快な足取りでくるりと体の方向を変え、3人に呼び掛ける。
「うん!」
「はい!」
「………」
「…朱羅君。"はい"、は?」
自分の言葉に返事をした瑪瑙や優斗に対し、無言のままの朱羅。
そんな朱羅に、斎は膝を曲げ、目線を同じ高さにすると、目を細め、返事を促す。
「…………………はい…」
「よく出来ました!」
朱羅の返事に満足した斎は、再び朱羅の頭を、大きな手で撫で回す。
「……いちいち頭を撫でるな」
流石に朱羅も鬱陶しさを感じたのか、冷たくそう言うと、斎の手を払い除ける。
「うわー朱羅君冷たーい!斎君ってば寂しいっ!」
「よしよし斎君。泣かない泣かない」
「あはは」
めそめそと泣き真似をして自分にしがみつく斎を
瑪瑙は笑いながら頭を優しく撫で、優斗は笑い声を上げる。
「……………」

― 家族 ―


そんな3人を見つめる朱羅の脳裏に、そんな言葉が過ぎる。

いつかの自分も感じたような暖かさや温もり。
とても遠く、朧気にしか覚えていない微かな記憶、僅かな匂い。
もしかしたら、自分の記憶ではないのかもしれない。
そんな事さえ脳裏を過る感覚ではあったが、それと同じようなものを、目の前の斎達に感じたような気がした。

「朱羅も、今日から俺等の家族だな!」
瑪瑙から離れると、斎は嬉しそうにそう言う。
「ようこそ、朱羅君!」
「ようこそ!」
どう応えて良いのか分からなかった朱羅は、無言のまま立ち竦んでいたが、笑顔のまま、朱羅を見つめる斎、瑪瑙、優斗の3人は、そんな朱羅に歩み寄っていく。
「宜しくな!」
差し出された手。
朱羅は、その手が何を意味するのか、考えた。

それは『握手』であるという知識はある。経験もある。
それでも朱羅は、その手を握っても良いのかと考えた。悩んだ。
未だ、その手を握っても良いのか、その応えは見つけられないけれど
その代わり…なのだろうか
朱羅は、手を握ることはなかったが、斎や瑪瑙、優斗の目を1人1人見ると、
小さくではあったが、こくりと頷いた。


+ ACT.04  握れぬ掌 揺れる想い +  Fin ...

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