+ ACT.05  新しい仲間の手料理 ( 2/3 ) +
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結局、ホームに到着する頃には、外はすっかりと闇に覆われてしまっていた。

少しでも費用を落とす為、ホーム内の明かりは最小限の明るさを保っている。
「こうやって生活してれば、自然と目も慣れてきて不便さを感じなくなる」
昼間とは異なるホーム内へと朱羅を招いた斎は、そんな事を話していた。
しかし、元々夜目の効く朱羅にとって、そんな室内には不便さを感じる事はなく、逆に、昼間の明るさよりも落ち着くような環境だった。

「えー………こほん。改めて紹介する。今日から俺達の仲間になる御堂朱羅だ。皆、宜しくな」
数時間前に同じ場所で同じ事が行われていた為、何やら可笑しな空気が室内を纏っている。
「皆を代表して言わせてもらうが」
少々きつい印象を受ける口調でそう声を上げたのは誄だった。
両腕を組み、目の前に立つ新参者に対する不信感を剥き出しにし、誄は言葉を続ける。
「今後、何か問題を起こしたり、役に立たないと判断した場合、即刻出て行ってもらうからな」
斎や瑪瑙、優斗の3人は朱羅を暖かく迎え入れてはいるが、他のメンバーは全員、素性も知れず、おまけに『お尋ね者』となっている朱羅に対し、不信感を募らせているのは事実。
その気持ちを代弁している誄に、他のメンバーは何度も首を縦に振る。
「…それで構わない」
ただ一言、落ち着き払った口調で、冷め切ったような口調で朱羅は淡々と答える。

「さーってと、挨拶はこの辺にして、皆腹減っただろ」
「!減ったー減った―腹ペコだー!」
「ぺっこぺこー!」
パンパンと手を叩き、話題を朱羅から夕飯に切り替える斎に真っ先に反応を示したのは、四六時中騒いでいるアンスズとパースだった。
斎の前に駆け寄り、大袈裟にお腹を摩り、自分達の空腹加減を表現する。
「そんじゃあ…早速朱羅君に手伝ってもらおうかなぁ?」
「………」
にこりと微笑み、朱羅へと視線を向ける斎に対し、朱羅は瞬きをし、小首を傾げる仕草を見せる。
「やっぱり交流を深めるには先ずは食事だからな。
ってことで、朱羅、お前夕飯作り手伝え!」
「………料理………」
肩をぽんぽんと叩かれ、夕飯当番に指名される朱羅。
「今まで1人だったって事は、料理くらい出来るんだろ?」
「…あまり経験がない」
「えーーー!じゃあ駄目だよ駄目!斎と瑪瑙の美味しい料理が食べたいー!」
「いーいーいー!」
朱羅の素直な答えに、アンスズとパースがブーイングをする。
「朱羅君、何でも器用にこなしそうだし、斎君と私で教えながらすればきっと大丈夫だよ」
斎とは反対側で見守っていた瑪瑙が、優しく朱羅に声を掛けてくる。
「…まぁ、別にいいんじゃないの?打ち解けるチャンスを与えるのは」
眼鏡を掛け、黒髪を後ろで縛った少年が、眼鏡のブリッジを上げながら言う。
「シセルの言う通り、チャンスくらいあげてやってもいいんじゃねーの?」
斎は膝を折り、背の低いアンスズとパースと視線を合わせながら
頬を膨らまし、不満を顔色に乗せている2人に優しい口調で尋ねる。
「…分かった」
「斎と瑪瑙がそう言うなら…」
未だ歯切れの悪い答えではあったが、2人は折れたようだ。
「それじゃあ決まり!食器当番、片付け当番、風呂当番、ゴミ集め当番もしっかり働くように。以上!」
斎のその声が室内に響くと、メンバー達はそれぞれの仕事をこなすべく、各担当場所に散って行った。
「朱羅君、一緒に美味しいご飯、作ろうね」
散っていくメンバーを見つめていた瑪瑙は、隣に立っている朱羅へと視線を移す。
「………努力はする」
「かたっくるしい答えだなぁ」
瑪瑙の言葉にぎこちない答えを返す朱羅に対し、困ったように笑いながら斎が言う。
「そんじゃあ始めますか!」
「はーい!」
「………」
朱羅は、居心地の悪さを感じつつも、静かに頷いた。



*



…先程から、背後にいくつもの視線を感じる…

今まで朱羅が握ってきた刃物は『奪う』事が目的の物ばかりで、何かを『作る』物など、殆ど手に取った事はなかった。
そんな違和感を感じていた朱羅は、始めこそ不慣れな手付きではあったが、瑪瑙に包丁を渡され、簡単な皮の剥き方を習うと、あっという間に自分のスキルにしてしまった。
「朱羅君上手!」
「おーおー。上手いじゃん、朱羅」
「………」
次々と野菜の皮を剥いていく朱羅に、瑪瑙と斎が声を掛けてくる。
そんな事をしていると、朱羅は背後に視線を感じた。
…いや、台所に立った時からずっと感じていた視線だ。
「………何故、俺は見られているんだ?」
恐らく隠れているつもりなのだろう。
数人の少年達がテーブルから僅かに顔を覗かせ、朱羅へと視線を向けている。
その様子に疑問を持った朱羅は、手を止め、何となく尋ねてみた。
「朱羅君は人気者ですなぁ」
朱羅が皮を剥いた野菜を一口サイズに切っている斎が面白そうに答えてくる。
「珍しいんじゃないかな?私も最初に来た時はそうだったし」
斎の回答にくすくす笑いながら、今度は瑪瑙が答えてくる。
「瑪瑙はご覧の通り、可愛い女の子だからあいつ等も直ぐに打ち解けたけど、朱羅は打ち解けるまで時間がかかるだろうなぁ」
そう言いながら、トントンと一定のテンポを響かせながら、
慣れた手つきで斎は野菜を切り分け、鍋の中へ入れていく。
「…打ち解けられるとは思っていないし、打ち解けるつもりもない」
斎の言葉に対し、朱羅はやはり淡々と答える。
「まーたそんな事言う」
呆れた様な、困ったような
そんな色を乗せながら、斎は朱羅を横目で見る。
「大丈夫だよ。朱羅君は優しい人だし、時間がかかったとしても、きっと皆は受け入れてくれる」
「俺は優しくなんてない」
「優しいよ、朱羅君は」
「……会って間もないのに、何故そんな事が言える」
自分の事を、自分以上に分かっているかのような瑪瑙の言葉に、朱羅は僅かにトーンを下げた口調で瑪瑙に言う。
「だって、朱羅君、助けてくれたもの。私の事」
「…あれは偶然…」
「偶然だって何だって、朱羅君は助けてくれた。
未だ出会って間もない『他人』の私を放っておく事だって出来たのに、朱羅君はそんな私を助けてくれたでしょう?」
「………」
瑪瑙の真っ直ぐで澄んだ瞳に、朱羅は思わず視線を外す。
「それに、優しい人に限って『自分は優しくない』って言うんだよ?」
ふふっと微笑みながら、瑪瑙はそう言った。
「瑪瑙は俺等のアイドルなんだ!捕るな!」
「そうだ!捕るな捕るな!」
「もう、2人とも、吃驚するでしょう?」
朱羅へと視線を向けていた中の2人…
アンスズとパースが突然駆け出して来て、瑪瑙の細い腰に抱きついてきた。
そして、非難の色を含んだ瞳で朱羅を睨みつけてくる。
「……捕る…?」
「朱羅は俺達から瑪瑙を捕る気なんだ!この色男!」
「いや、それ貶してないから」
アンスズとパースと共に朱羅を背後から見ていた少年の1人が、朱羅へと向けた…恐らく非難のつもりであったであろうパースの言葉に思わずツッコミを入れる。
「瑪瑙は俺達の母ちゃんなんだ!母ちゃん取ったら許さないぞ!」
ぽかぽかと朱羅の腹部に拳をぶつけてくるアンスズに、朱羅はどうししたら良いものなのかと、真剣に悩んでしまう。
「俺は瑪瑙を捕ろうだなんて思っていない」
「ほんとか!嘘吐いてないだろうな!」
「嘘吐いたら許さないぞ!」
朱羅の目の前に立ち、眉間に皺を寄せた2人が朱羅に強く訴えてくる。
「…嘘を吐いて何になる」
「今回は許してやる!」
「次はないと思え!」
「………」
ついていけない展開に、朱羅はただ、無言で2人を見る事しか出来なかった。
「さっきからぎゃーぎゃー言ってるアンスズ君とパース君。
それに、そこで監視している君達。仕事は終わったのかな?」
手を止め、少年達に視線を向けた斎が続けて言う。
「働かざる者食うべからず。この教訓を忘れちゃったかなぁ?」
斎の何処か黒い笑みに、少年達は目を丸くさせると、わーっと勢いよく台所から出て行ってしまった。
「まーったく。ぴーちくぱーちく煩いもんだ」
「斎君がそれ言っちゃう?」
「俺は父親だし、口煩くなるのは致し方ない!」
「………」
突然やってきたかと思えば、嵐のように去ってしまう…
そんな此処の住人達に、朱羅は戸惑いを覚える事しか出来なかった。

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