+ ACT.06  過去と今を取り巻く世界 ( 2/3 ) +
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斎達がホームへと戻ると、早起き組の2人が
昨夜、全員で食事をとった大広間に姿を見せていた。

「おはよう。斎、瑪瑙」
「おっはよー。2人とも何処行ってたの?」
部屋の中央に配置されたテーブルに沿うように置かれた椅子に座る少年2人が、外から戻ってきた斎と瑪瑙に質問を投げ掛ける。
「放浪お姫さんを無事捕獲して、寝室に寝かしてきたとこ」
「放浪お姫さん?誰それ」
「…あ、もしかして朱羅さん?」
「うん。朱羅君、いつの間にか此処を抜け出して外で寝ていたみたいなの」
「え、外って……」
少年のうち1人が瑪瑙の説明を聞き、怪訝な表情を見せる。
「粗方、俺等と一緒に寝るのが嫌だったんだろ」
テーブルに頬杖をつき、うんざりしたような色を乗せた表情で少年は言う。
「…まぁ、そんなこと言うなよ」
予想が出来た少年の反応に、斎は困ったような哀しそうな表情で宥める様にそう言った。
「時間は掛かるとは思うけどさ…、朱羅も悪い奴じゃないと思うんだ」
「俺等は斎や瑪瑙のことは信頼してるよ。…でもさ、やっぱアイツ…なんか普通の感じがしないし」
「うんうん。なんかこう…空気が違うって言うのかなぁ」
「確かに朱羅君、独特の空気感はあるよね」
4人でそんな話をしていると
部屋に飾ってある古く寂れついた時計から時を知らせる音が鳴り響く。
「…っと、そろそろ朝飯作らないとな」
「あ、そうだったね…!」
音を日々か焦る時計を見上げると、斎と瑪瑙は部屋を後にした。



*



昨夜の食事の時と同様に、朝食もやはり賑やかなものだった。
よくもまぁ朝からこんなにも騒げるものだと、未だ若干頭がぼぅ…っとしている朱羅は、席のあちこちで繰り広げられている『ご飯戦争』を静かに眺めていた。
あまりに酷いと斎の怒りの鉄拳が飛ぶが、小さな取っ組み合いをいちいち気にしていては、叱る斎の身が持たないことは容易に理解が出来た。


…それにしても


こんな賑やかな場所でも未だに醒め切らない睡魔
普段は眠らずとももつ身体ではあったが
時々朱羅は、このような深い睡魔に襲われる

そして
いつの間にか自分の背後に現れる『別の誰か』に
身体が奪われそうな感覚に襲われる

― 否
『奪われる』と言うよりも『誘われる』と言った方が正しいかもしれない



耳元で誰かが囁き
背後から身体を抱きしめられるような
そんな感覚……

囁かれた内容はよくわからない
ただ、そのまま意識を渡してしまえば楽になるのではないかと
ふと、そんな思考が俺の脳裏を過ぎる

俺を抱きしめながら首筋に口付け、繰り返し肌を弄る『別の誰か』は
俺にどうして欲しいのか
目的はなんなのか…





俺には 何もないと言うのに





「― ら、朱羅…朱羅…!」

突然、現実に引き戻された。

「…ん……」

未だぼんやりと霞む意識の中、朱羅は無意識に自分の名を呼ぶ者を目で追った。
「お前。大丈夫なのか?具合悪いなら休んでてていいぞ」
漸く焦点が合い、目の前で揺れる茶色の物体が何であるのか理解する。
「…斎…」
それは、椅子に座る朱羅の様子を心配し、屈む斎の髪の毛だった。
そこから少し視線を上げると、斎は眉を顰め、こちらを見つめていた。
「…って、目、充血してる?」
斎は朱羅の顎に軽く手を添え、少し顔を上げさせると、そのまま明るい場所で朱羅の瞳を覗き込む。
「充血…じゃあないな。でもなんか赤っぽいし、猫みたいな目になってる」
「………」



赤…

紅色の 瞳……


小さい頃
まだ『家』があった頃 血の繋がる『家族』があった頃、俺は姉さんから聞いた。
御堂家には代々、ヒトとは異なる種族―『キリス種族』の血が受け継がれているのだと。
本来であれば銀色の髪に紅色の瞳で生を受けるが、人間との混血種である御堂家の血筋の者に受け継がれるのは紅色の瞳だけ。

そんな、異種族であるキリス種族は人間に忌み嫌われ、疎まれた種族だそうだ。
原因は、人間にはない高い身体能力を使い、人間達を蔑み、殺めた為であり、その血が流れる我々もまた、その存在自体が『罪』なのだと。



「…それで、俺に何か用があるのか?」
「― あ、そうだった」
朱羅の瞳の深い色に惹き込まれていたのか、斎はハッと目を一瞬丸くすると、朱羅の顎から手を離し、少し距離を置く。
「今日のお前の仕事として、薬の調達を任せようと思って」
「…薬の調達」
どうやら朝食を終えた後
そのまま大広間で各自の今日1日の仕事分担が発表されていたようだ。
ガヤガヤとした喧騒が戻ってきたことを認識した朱羅は周囲を見渡す。
そこには、いくつかのグループに別れ、任された仕事のミーティングを行っている少年達の姿があった。
「そ。傷薬とか常備薬は勿論だけど、1番重要なのが瑪瑙の薬の調達」
「瑪瑙の?」
「瑪瑙、呼吸器官がちょっと弱くて、毎日薬を飲んでるんだ」
「………」
事情を説明してくれる斎から、朱羅の視線は少年達を会話を楽しんでいる瑪瑙へと移る。
「未だ見たことはないかもしれないけど、たまに咳き込んでる時あるだろ?
そんなに酷くはないんだけどさ、やっぱ飲んでた方が良いだろうし。
…ってお前、具合悪くないのか?」
「一時的なものだ。問題ない」
「そっか。でも念の為もう1人一緒に行かせ…」
「いい。場所と買う物が分かれば1人で行ける」
「1人ってお前…」
「忘れたのか?俺は"お尋ね者"だ。此処の仲間を一緒に行かせるのは危険行為だと思うが」
「………」
本来なら『こんな自分を匿っている行為そのものが危険行為だ』
― と言いたいところではあったが、それでは堂々巡りになってしまう。
そう考えた朱羅は、敢えて口にはしなかった。
「今まで自分の身は自分で護ってきた。問題はない。道も1度見れば覚える」
「……わーった。でも、これは付けて行け」
そう言うと、斎は近くの棚から黒のチョーカーのような物を手に取り、朱羅に渡す。
「…これは?」
「俺等全員付けてる探知機みたいなもん。誘拐とか、何かトラブルに巻き込まれたりしてもこっちで居場所を掴むことが出来るんだ」
「…よくこんなもの、見付けたな」
朱羅は斎に問う。
「見つけたんじゃない。俺が作ったんだ」
「作った?」
「そ。部品とか…まぁ、その辺は俺の顔の広さを使って調達。
で、俺が独学で作った。好きなんだよ。細々とした作業とか何か作るの。機械弄りもな」
「…そうか」
「ほれ、後ろ向きなさい。付けてあげるから」
「自分で出来る」
「ちぇー。姫はご機嫌斜めだな」
「その呼び方は止めろ」
朱羅は斎を冷たくあしらい、チョーカーを付ける。
「そんじゃ、これが買い物メモとお金。宜しくな」
「分かった」
斎から手渡されたメモには、ちょこちょことイラストが描かれ、読みやすい文字で薬の特徴なども一緒に添えられており、斎の性格が伺えた。
そして、これも斎の手作りだろうか…小さな小銭入れのポーチ― それも一緒に手渡される。
「気を付けて行ってらっしゃい」
「………」
"いってらっしゃい"と
にこりと微笑みながら言い、手を振る斎の姿に、朱羅の思考は一瞬停止した。
「…?朱羅?」
「― いや」
首を傾げ、きょとんとした表情で自分の名を呼ぶ斎に気が付き、朱羅の思考は再び動き出す。

― 懐かしい なんて………
朱羅の表情に、困惑に似た色が乗せられる

そんな自分に気が付くことなく、斎に背を向け、朱羅は薬の調達へと向かった。

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