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他人から施しや情けを受けることで得られるものなんて
自分を確立するに足るものではないんだ






 ACT.07  己のための攻防






落ち着きのある上品な調度品に飾られた薄明かりに灯された廊下を進み、大きなドアの前で足を止めると、コンコンとノックをする。
「瑠架だね。入りなさい」
室内からの返答を受けると、瑠架と呼ばれた女性はドアを静かに開ける。
「ただいま戻りました。瑠唯兄さん」
瑠架はそう言いながら奥に進む。

室内も廊下の延長線上にあるかのような質の良い調度品に飾られており、深紅の絨毯がその品々の美しさを更に際立たせている。
そんな空間の中、瑠架よりも色味の濃い銀色の髪と、紫に近い蒼色の瞳を持つ青年は、今し方入ってきた瑠架を見る。
「朱羅から預かってきました」
瑠架は、ソファーに腰を掛け、こちらを見ている兄―瑠唯の手に、朱羅から受け取ったディスクを渡す。
「中身は確かめているね?」
カラカラと僅かな音を鳴らしながらディスクを上下に軽く動かす瑠唯には、朱羅が手に入れ、瑠架が運んできた物自体に関心はないようだった。
「兄さんも人が悪い。そのディスクに意味なんてないんでしょう?」
「意味が全くないという訳ではないよ、瑠架。この世に意味のないものなんて存在しないのだから」
口元に細い指を軽く沿え、くつくつと笑う瑠唯。
「兄さん自身が会いに行けば良かったのでは?」
笑む瑠唯とは異なり、表情を変えずに問う瑠架は、瑠唯とテーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろす。
「朱羅と会う事が目的ではないからね。私が赴くまでもないんだよ」
そう言うと、瑠唯はテーブルに置かれていた紅茶を一口、口に含む。
「私が言っているのは『朱羅に』、ではなく狗達―『BloodyHoundに』という意味ですよ」
瑠架は、肩に僅かに乗る銀糸を軽く指で払いながら瑠唯に言う。
「瑠架も人が悪いな。目的を理解した上でそんな事を言うのだから」
くすりと笑む瑠唯。
「朱羅は、自身の痛みには強い。そうなると、自ずと兄さんのしたい事は理解出来ますよ」
口元に指を添えた瑠架は、静かにそう答えた。



*



薄暗く、所々に濃い染みが見られる木製テーブルの上に、僅かな灯りを灯す1本のランプと、いくつもの酒瓶と汚れたコップが乱雑に乗っている。
テーブルの上に乗る酒瓶を1本乱暴に握ると、その勢いを殺さぬまま勢いよく口の中に酒を流し込む。
収まりきらなかった酒は男の口内から溢れ、頬を伝って零れ落ち、男の服やテーブルを紅色に染め上げる。
テーブルを囲む他の男達は俯き加減でその男を見ているが、言葉を一切発しなかった。
酒が空になると、男は強く握り締めた酒瓶の底をテーブルに叩きつけ、怒号を響かせる。

「一体何だってんだ!」

酒瓶を握り締める男の手が、激昂で小刻みに震えており、加えて、酒が入っている所為もあるのだろうが満面朱を濺いでいた。

「Asuraだか何だかしらねぇが、俺達の縄張りを荒らしやがって!」
元々癇癖が強い男ではあったがここまで激昂する姿も珍しい…と、囲む男達は感じたが、その気持ちは理解出来ていた。
だからこそ男の癇癪を抑えようともせず、掛ける言葉を探していた。
「まぁ……お前が苛々するのもわかるけどよ……Asuraの頭の瑠唯って奴、アイツ、俺はどうも苦手だ…」
「なんつーか、あの獣の目…本能的に殺られるって…思っちまうよな……」
「俺等の仲間も何人も捕まって、噂だと…あいつ等の人体実験のモルモットにされてるって話だ」
「だから何だってんだ!あの小僧にも俺等の情報を盗まれるしよ!俺等には俺等なりのプライドっつーもんがあんだろうが!」
テーブルの上に両脚を乗せ、脚を組んだ男は、新たに手に取った酒瓶を逆さにし、豪快に酒を喰らい始める。
「小僧…か…。アイツ、確か最近千隼のクソガキんトコにいついてるって話だよな…」
「待てって!あの餓鬼には手を出すなって瑠唯の野郎に…!」
「馬鹿か、お前。『あのガキに』、手を出さなけりゃあいいんだろ?」
口内から漏れた酒を乱暴に腕で拭うと、男は酒瓶を静かにテーブルに置く。
「……まぁ、言われたのは『朱羅に手を出すな』…って事だったけどよ…」
「つーか、よく考えりゃあ今じゃあ『BloodyHound』なんて呼ばれてるが、元々俺等は『組織』なんてもんじゃねーんだしよぉ。お前等だっていつの間にか組織化されて、上の指示で動くような狗になんて成り下がっちゃあいねぇんだろ?」
先程まで影が落ちていた男の瞳が爛々と輝き始め、その瞳で男は他の者達を嘗め回す様に見渡す。
「…元々、ここいら一帯を縄張りにしていたのは俺等だしな…」
「…そうそう。千隼のガキやAsuraの方が後から来た訳だし……なぁ?」
1人の男の嗾けた言葉に、周囲の男達は反応を示し始める。
「このまま俺等が大人しく燻っていたら、益々アイツ等が好き勝手するよな…」
「…だろぉ?だったら話は早ぇじゃねーか…」
そう言うと、男は不気味に口元を三日月に歪めた。



*



野宿には慣れてはいるが、複数人でひとつの部屋に眠るという経験が殆どなかった朱羅にとって、寝ていても起きていても同じように活発に動き回る他の少年達と寝室を共にするのは簡単な事ではなかった。
先ず、眠る場所は決まっているようで決まってはいない。
斎や要が先頭に立って寝かしつけはするのだが、注意する者がいなくなると寝場所がシャッフルされるのだ。
決め方は気分次第なようで、じゃんけんだったりしりとりだったりプロレス(…という名の単なるじゃれ合い)だったりするらしい(優斗が朱羅にぽそぽそと話してくれた)。
あまり騒がしくすると斎や要の雷が落ちるので、最近では自分達で作ったトランプが流行っているようだった。
当然、同室の朱羅も強引に参加させられた。
朱羅自身は残った場所でいいと言ったのだが、他の少年達はそれでは納得しないようで、『漢だったら正々堂々勝負しろ!』と強引に参加させられたのであった。

初参加だった昨晩はトランプ。
頭を使うゲームが得意な朱羅は、手加減をするのをうっかり忘れてしまい、難なく1位になってしまった。
少年達はそんな朱羅に対し、何かズルをしたのだと責め始めたのだが、段々エスカレートし、騒がしくなったところを斎に見付かってしまい、全員その場に正座させられてしまった(勿論朱羅も一緒だ)。
ただ目を瞑るだけで済むはずの睡眠に、こんなにも時間を要することもあるのだと、朱羅はこの時初めて知ったのだった。

そんな、賑やかで慣れない夜を過ごした朱羅は、翌朝、普段より少し遅めに目を覚ました。

遅くまでひそひそ話が聞こえており、元々深い眠りにつきにくい朱羅には睡眠とは言えないものだった。
そんなことを頭の片隅でぼんやり思うと、上体を起こし、周囲を見る。
すると、眠っているのは1人か2人程度で、他はぐちゃぐちゃになった布団だけが残されていた。
早起きを得意とする(これも斎の教育の賜物だろう)少年達のことだ、きっと朝食の準備を進めているのだろうと思っていたが、ドア越しの廊下が何やら普段よりざわめいていることに朱羅は気が付く。

ゆっくりと身体を起こし、ドアを開けて顔だけ出すと、廊下には少年達が屯っていた。
その少年達の先を見ると、斎が部屋から出て来たのが見えた。
―あれは…瑪瑙の部屋だ
ここで、朱羅は何となく状況を把握したが、斎の一言で朱羅の予想が正しかったことがわかった。
「あーもー…お前等が喚くと瑪瑙がゆっくり休めないだろ。瑪瑙は2、3日安静にしてれば元気になるから安心しろ」
少年達が眉を顰め、瑪瑙の身を案じている。
まだ小さな少年などは、今にも泣きそうな表情を見せていた。
「少し熱はあるが、今回は軽い風邪だ。食欲もちゃんとあるから心配ない。大丈夫だ」
斎の服を小さな手でぎゅっと握り、斎を見上げる小さな少年の頭を優しく撫でながら、斎は瑪瑙の様態を説明する。
「…んでも、ちょっと問題があってだな…」
「何?!」
それまで心配そうに曇りがかった表情で眉を顰めていた少年達の顔がガラリと変わり、今度は両手を握り締め、目をカッと見開いた状態で斎を見つめていた。
「昨日、朱羅が買ってきた風邪薬、昨晩キヨ婆ちゃんが風邪引いて寝込んじゃって、様子を見に行った時に殆どあげちゃったんだよ」
「え……じゃあ、風邪薬、もうないの…?」
「今日のお昼の分まではギリギリあるんだけどな。今夜以降の分がない。だからご飯の後、誰かに買ってきてもら―」
「「俺らが行く!俺らが買ってくる!」」
斎の言葉を遮り、少年達を押し退けて斎の前に挙手しながら出てきたのはアンスズとパースだった。
「わーったわーった。アンスズとパースにお願いするよ」
「任せておけ!」
「おけー!」
2人の元気の良さに少しばかり苦笑しながら、斎はぽんぽんと2人の頭を撫でる。
「よーし。それじゃあ朝ごはんにしようか」



*



普段より少々落ち着きのある朝食を終え、普段通り各自の仕事割りを終えると、本日の最重要任務を任されたアンスズとパースは破竹の勢いで家を後にした。

各々が仕事に就き始めたが、朱羅はひとつの疑問を、隣にいる斎にぶつける。
「…斎、俺の仕事は何だ」
「お前の今日の仕事は、瑪瑙の看病をすること!」
朱羅の予想に反した答えに、朱羅は返答するのに少々時間が掛かってしまった。
「………看病…」
「瑪瑙、昨日お前の事心配しててさ。体調が悪そうだって」
―ああ、そういうことか…
朱羅は斎のその言葉に、自分が瑪瑙の看病役に任命された意図を理解した。
「少しだるかっただけだ」
「…みたいだけどな。でも、一応今日は休んでおけ」
「………」
「休むっつっても責任感の強いお前のことだ、大人しく休んでる訳がないからな。だから、今日のお前の仕事は瑪瑙の看病って訳だ。つーか、瑪瑙の看病が出来るだなんて、お前は幸せ者なんだぞー。光栄に思い給え!」
「…だったら斎が看病すればいいだろう。お前の方が適任だ」
「俺は今日は仕事仲間と打ち合せがあるからやりたくても出来ないんですねー。瑪瑙の食事もちゃんと用意しておくし、お前なら問題ないって」
「……わかった」
瑪瑙の一方的なものとは言え、今まで自分の身ばかり案じてきた彼女に、朱羅は多少なりとも恩義のようなものを感じていた為か、朱羅はそれ以上何も言わず、仕事を受け入れた。
「よし!…あ!言っておくけど、瑪瑙が何か食べたいって言っても絶対にお前は料理するなよ!」
「…わかっている」
そんな会話を手短に済ますと、斎は瑪瑙の現在の容態、キッチンに飲み物や氷、枕、胃に優しいの食事(※温めるだけ)、残り僅かな風邪薬を用意していることを説明する。

ここのリーダーを務める斎は、夜が遅く朝は早い生活をしているようだが、時刻を見る限り、目が覚めてから間もなく、また、他の少年達の世話や朝食の準備もしていたというのに、短時間のうちにこれ程手際よく瑪瑙の看病をする用意を整えたのかと思うと、何やら不服ではあるが、朱羅は感心せざるを得ない。

斎に対する第一印象は良いとは言えなかった。
自分を勝手に連れて来て、強引に此処にいろと言う。
強引で人懐こい。
人懐こいと言えば聞こえはいいが、悪く言えば馴れ馴れしい。
初対面の自分に対し、理解出来ない言動を見せる斎(それは瑪瑙にも言えたことなのだが)。
それでも、斎の本質が少しずつ垣間見えるようになってきているのも事実。
斎の仲間意識はとても強く、『仲間』と言えるものを出来る限り避けてきている朱羅にとって、その感情は正直理解しがたいが、責任感の強さと実行力には感心出来るだけのものが彼にはある。
そう、朱羅は感じるようになってきていた。

斎は朱羅に瑪瑙のことを任せると、ホームを後にした。
掃除や洗濯担当の少年達は数人残っているものの、食事時、全員がいる時に比べれば静かになったホーム内。
朱羅は斎が用意した飲み物とコップをトレイに乗せ、静かめに瑪瑙の部屋のドアをノックする。
瑪瑙の返答がなかった為、朱羅は恐らく眠っているであろう瑪瑙を起こさぬよう、静かにドアを開け、室内に入る。
室内は一見すると質素なものだが、所々に少女らしい物が飾られてある。
木目を生かしたナチュラルなブラウンのベッドやチェスト、オープンラック。
余った生地で作ったと思われるブーケ型の置物やぬいぐるみ達、その下にはパッチワークで作られたクロス、小物がまとめられている小さめの木製のカゴ等、スラム街にあるとは思えない部屋。
人当たりが良くて顔が広い、おまけに手先が器用で、自分で手作りするのが好きな斎が作ったのだろう。
生活環境は決して良いとは言えないものだが、彼らはそんな環境でも、最大限の努力と工夫をこらして生活していることがよくわかった。

―与えられるものではなく 自ら見付け、手にするもの…

ふと、そんな言葉が頭を過ぎる。

朱羅はゆっくりと足を進め、ベッド脇にある小さなサイドテーブルの上にトレイを置き、すぐ横に置いてある椅子に腰を下ろす。
静かに眠っている瑪瑙を少し見つめると手を伸ばし、額にそっと置く。
まだ熱はあるようだが、それ程高くない。
呼吸も思っていたより落ち着いており、斎の言葉が正しい事が確認出来た。
容態を確認すると、朱羅は手を元の位置に戻す。

すると、瑪瑙の瞳がゆっくりと開いた。

「…あ、朱羅君。おはよう」
「ああ。おはよう」
瑪瑙は1度天井を見つめた後、人の気配を感じ、視線を朱羅に向ける。
熱でまだ頬は朱色に染まっているが、彼女の笑顔は普段と変わりなかった。
「朱羅君が看病してくれるの?」
「ああ」
「ふふ。嬉しい…なんて言ったら怒られちゃうかな?」
瑪瑙は穏やかに微笑む。
「………」
朱羅は黙って瑪瑙を見つめる。
「…?どうしたの、朱羅君」
「辛いなら無理に笑うな」
朱羅の言葉に、瑪瑙は一瞬、瞳を少しだけ丸くし、瞬きをするが、すぐに穏やかに微笑んだ。
「辛くないよ。皆がいるから。でも、皆と一緒にご飯を食べたりお話することが出来ないのはちょっと寂しいかな」
「皆、心配していた」
「…風邪を引いて皆に申し訳ないという気持ちは勿論あるの。でもね、寝込んでいる私に出来ることって、早く病気を治すことしかないって、そう思うの」
「………」
瑪瑙は組んだ両手を布団の上に乗せ、天井をまっすぐ見つめながら続ける。
「私ね、生まれた家を失って、家族も失って、みーんな失って…何処に行く宛もなく彷徨っていたの。そんな時、たまたま斎君に出会って、行く場所がないなら一緒にいなよって、そう言われたの。…私が何処の人間かも全然知らないのに」
「…俺のときと同じだな」
「ふふ、そうなの。私はその時見た目もボロボロに汚れていたけれど、一応女の子だったから、他の皆も黙って迎え入れてくれて。最初は此処に落ち着こうなんて考えていなかったのに、気付いたらいつの間にか此処が私の居場所になってた」
そう語る瑪瑙の表情は喜びや慈しみだけでなく、哀しみのような複雑な色も僅かに乗せられていた。
「此処にいたい…皆と一緒にいたいって。そう感じたことを自覚してから、私は"自分が此処にいてもいい理由"を見付けようって思ったの」
「……自分が此処にいてもいい理由…」
「そう。斎君や皆は揃って"此処にいていい"って言ってくれていたけれど、私はその当時、今よりも身体が弱くて皆にいつも迷惑を掛けていて…。だから、いつも皆に負い目があったの。…それなのに私は"此処にいたい"って…そう思い始めてた」
朱羅は黙って瑪瑙の話に耳を傾ける。
「最初はそんな自分の本心さえ偽ろうとしていたけれど、やっぱり本当の気持ちは誤魔化し切れなかった。逆に、強さを増す一方で…。それで私は考えたの。本当に此処にいたいのなら、胸を張って"此処にいてもいい"と自分自身で思えるようになりたい。ちょっとやそっとのことでは揺るがないような強い証を自分で得ようって」
それまではそっと組まれていた瑪瑙の指に、手に、ぐっと力を込められる。
「私はずっと"自分の居場所"が欲しかった。だからどんなに惨めな生活をしていても死のうだなんて考えられなかったんだと思う。1度は失った私の居場所……今度は"与えられた居場所"ではなく、私が望みんだ"居場所"を私の力で得ようって、その時誓ったの」
「…瑪瑙は強いんだな」
「ううん。強いんじゃないよ。強くなったの。強くしてもらったの。斎君や皆に」
天を見つめていた瑪瑙は再び朱羅に視線を戻す。
穏やかに、だが瞳は強く、真っ直ぐに朱羅を捉える。
「…だからもし、この先朱羅君も此処にいたいって…そう思ったら、此処にいて欲しいの。朱羅君は私と違って頭もいいし身体能力もいいし、皆の力になれることは沢山ある。だから、朱羅君は此処にいていいんだよ?」
「………」
「朱羅君は自分にも他人にも厳しい人でしょう?…だから、私以上に此処にいても良いと思える確固たるものがなければ、きっと此処にはいてくれないと思うから…」
瑪瑙は静かに朱羅の手に自分の手を乗せる。
「あのね、斎君が朱羅君に直感的に感じたもの…それはきっと、朱羅君が自分と"対等な存在"になってくれる。『護るべき存在』ではなく『共に護る存在』だということだと思うの」
「共に護る存在…?」
「斎君を支えたいって…私は思ってる。少しでも支えになればって。でもね、斎君にとって私は"護るべき存在"であって、斎君と対等な存在…"共に護る存在"にはなれないの。斎君は仲間の皆を信頼しているけれど、自分が皆を護るんだという仲間意識が強過ぎるところがあるの。それなのに弱音は吐けない…。…だから、いつか壊れてしまうんじゃないかって…私は不安なの」
瑪瑙の言う、斎の"強過ぎる仲間意識"…
それは朱羅自身も感じていたことだった。
「でもきっと、本心では斎君も誰かに頼りたいって思ってる。そうじゃないと…自分が壊れてしまっては皆を護ることなんて出来ないから。だから、朱羅君に自分と同じものを感じ、一緒にいて欲しい、一緒に護って欲しいと強く願っているんだと思うの」
「…買い被りすぎだな」
「ううん、そんなことない。斎君が誰かを心配したり一時的にでも此処に住まわせたりするのはあまり珍しくない事だけれど、あんなに強く、必死になって誰かを引き止める斎君は初めて。それに、斎君の直感が間違ったことは今まで1度もないもの」
「………」
「斎君自身も直感的に感じた事で自覚がある訳ではないから、自分がそこまで朱羅君に強い想いを抱いている理由はまだ不透明で戸惑っているみたいだけれど…」
朱羅の手に添えられた瑪瑙の手に、力が込められる。

「斎君の、助けになって欲しいの…」
「………」

僅かに歪められた眉、歪んだ緑瑪瑙の瞳…
そんな表情で向けられた瑪瑙の朱羅に対する願いは
同時に、懇願でもあるように朱羅には感じられた。

自分が、大切な存在である斎の力になれないことに対する苦悩、悔しさ…
そんな、斎への親愛と
瑪瑙自身が朱羅に対して抱いている想い…
その両方が混在しているようだった。

「…ここまで言っておいて何を今更と思うかもしれないけれど、無理強いしている訳ではないの。…でも、朱羅君なら、本当に此処を出て行きたいと思っているなら出て行ける。それをせずに今も此処にいてくれる…。だから私、少しは望みはあるのかなって勝手に思ってるの」

先程まで見せていた、どうしようもない感情を乗せた瑪瑙の表情が幾分穏やかになり、
普段よく見せる、柔和な笑みとなった。


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