+ ACT.08  誘拐と脅迫 そして... ( 1/2 ) +
ACT.07 << Story Top >> Next


目障りなモノは全て消し去る
そこに 例外などない






 ACT.08  誘拐と脅迫 そして...






朱羅に対し、胸の中に留めていた願いを言の葉に乗せ、伝えた瑪瑙は、それだけで満足したのか、その後は静かに瞳を閉じ、眠ってしまった。
朱羅は無言でそんな瑪瑙を見つめ、気が付けば時計の針が夕刻を示していた。
現実に引き戻されたような感覚を覚えた朱羅は、廊下から複数の少年達の声が発せられていた事に気が付く。
何事かと思った朱羅は、瑪瑙を起こさぬよう、静かにその場に立ち、ドアを開け、廊下に出る。
「こんな時間になってもアンスズもパースも帰ってこないなんて…やっぱり変だよ」
「だよな。薬屋だってそんな遠くないのに…」
話を聞くに、瑪瑙の薬を買いに行ったアンスズとパースがまだ戻って来ていないようで、それを案じている少年達が廊下に集まり、話し込んでいた。
「斎も要もまだ戻って来てないし…」
1人の少年が眉を顰め、そんなことを話していると…
「どうしたんだ皆。こんなとこで難しい顔して」
「斎!」
自分の仕事を終えた斎がタイミング良く帰ってきた。
「静かに!瑪瑙の部屋の前だろ。広間に場所を移す」
斎は自分の名前を大きな声で呼んだ少年に注意をし、そのまま広間へと場所を移す。

「…で、どうしたんだ?」
広間のテーブルに軽く体重を預けた体勢で、斎は事情を尋ねる。
「アンスズとパースが…」
「まだ帰ってこないんだ…」
少年2人が神妙な面持ちでそう答える。
「アンスズとパースが?―あの2人なら、いつも通り何処かで寄り道している可能性もあるけど…」
「でも、瑪瑙の薬だろ…?」
「あの2人だったら瑪瑙の薬を調達したら真っ先に戻ってくるよ…」
「…そうだな」
普段なら寄り道が多いアンスズとパースだったが、瑪瑙には人一倍懐いており、瑪瑙の体調をいつも案じていた2人。
そんな2人が、大切な瑪瑙が今欲している薬を手に入れた後、のんびりと寄り道をするということは考えられないことだった。
「取りあえず、2人の居場所を探ってみるか…」
斎はそう言うと、自分の部屋に向かう。

斎の部屋は狭かったが、ドアを開けると真っ先に視界に入るのは、テーブルに乗った4台の古びたモニターと2台の古びたパソコン。
目の前の壁には大きなボードが設置されており、メモや写真等が数多く貼り付けられている。
両脇には天井にまで届く棚があり、棚に設けられたいくつもの引き出しの中には、今まで集めてきた沢山の情報をまとめた資料やHDなどが、名前順や種類別に綺麗に整理されている。
狭いながらも、空間を最大限に生かしている部屋だった。
斎はパソコンの前の椅子に腰を掛けると、スリープモードにしていたパソコンを起動し、ソフトを立ち上げる。
画面が開くと、そこにはホームのメンバーの名前が記されたリストが左側に、そして右側には選択されたメンバーの現在地を示す地図が表示されている。
「アンスズとパースは………」
斎は2人の名前を選択し、現在地を調べる。
「…町外れの倉庫街………」
「何でそんなトコにいるんだよ…!」
「もっ…もしかして……誘拐………?」
2人の居場所がわかると、周囲がざわめく。
そうした中で…
「こんなトコで固まって何やってんだよ」
「要!」
斎同様、仕事を終え、帰宅した要がざわめいている斎の部屋に顔を出す。
「要。丁度良かった。今から俺とジェリク、ハンスの3人で町外れの倉庫街に行って来る」
「何でそんな場所に…」
「アンスズとパースが…恐らく何者かに連れ去られ、2人の探知機が示しているのは倉庫街なんだ。チョーカーが外されている可能性はあるが、現時点での手掛かりはこれだけだから、とりあえず向かってみる」
「それだったら俺も行く」
「いや。お前は念の為、此処に残って欲しい。瑪瑙も本調子じゃないしな」
「………わーったよ。…気を付けろよ」
「ああ。それじゃあ頼む。ジェリク!ハンス!行くぞ!」
「了解!」
「応!」
斎は要の目を真っ直ぐ見てそう言うと、ジェリクとハンスを連れ、自室を出る。
すると、斎は自室から少し離れた場所にいる朱羅を見付ける。
「―朱羅。頼むな」
「…ああ」
それだけ会話を交わすと、斎達はホームを後にした。



*



斎達が倉庫街に到着した頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。

街灯が少なく、人気のない倉庫街。
今では本来の目的で使用されることはなく、素行の悪い集団が溜まり場として使われるくらいのその場所は、空気が重苦しく、立っているだけでも独特の雰囲気に息苦しさのようなものを感じる。
「…アンスズとパース…見当たらないな…」
「つか、人の気配もないんだけど…」
ジェリクとハンスは周囲を警戒しつつ、見渡す。
「………」
斎も同様に周囲を伺うと、突然、正面が真っ白に飛ぶ。
「やーっと来たか…。糞餓鬼共…」
それまで薄暗かった周囲が証明に照らされ、斎達は一瞬視界を失うが、男の低い声が周囲に響き、ゆっくりを瞼を開ける。
「お前は……BHのヘルマン…!」
斎は次第に戻る視力で、目の前に並べてあるコンテナの上に立つ男の名を呼ぶ。
「ったく…おめーらおっせーんだよ…。まぁ?お蔭でコイツ等を甚振る時間がたーっぷりあったんだけどなぁ?」
「っ…!」
「アンスズ!パース…!」
ヘルマンは斎達を見下し、唇を三日月に歪めるとコンテナから飛び降り、コンテナの隙間から、他の仲間が拘束しているアンスズとパースを斎達の目の前に突き飛ばす。
「いっ……つきぃ………」
「っく………ひっく……」
突き飛ばされ、地面に倒れ込んだアンスズとパースの顔は、男達に何度も殴られ、蹴り飛ばされたような痛々しい跡がいくつも残されている。
全身もボロボロで、服の切れ間からは血が流れ出ており、流れ出ている血が服を染み渡り、赤黒く変色していた。
「てめぇらぁ………」
斎の身体は怒りで震え、憎しみの籠った鋭い目つきでヘルマンを睨みつける。
「おーおーお前もそんな殺意の籠った面が出来るんだなぁ?ははっ!」
「ふざけんな!!さっさと2人を解放しろ!」
斎の怒号が周囲に響き渡る。
斎の背後にいるジェリクとハンスは、BHのメンバー数人に取り囲まれた雰囲気に呑まれ、ただ震えることしか出来ていなかった。
「てめぇは相変わらず威勢のいい餓鬼だなぁ…」
斎の、恐れを知らないその態度に苛ついたのか、ヘルマンは腰に付けていたサバイバルナイフを取り出し―
「ああ!!」
「アンスズ!」
アンスズの脇に場所を移したヘルマンは、手に持ったナイフをアンスズの掌に突き立てた。
「てめぇ!!」
「おおっと動くなよぉ?…」
「っ…!」
思わずヘルマンに飛び掛かろうとした斎は、ニヤついたヘルマンの笑みと、アンスズの掌に突き立てたままのナイフを持つヘルマンの姿を見、反射的に脚を止める。
「…そうだ、それでいい。お前らが下手に手を出せば……」
「あああああ!!」
「アンスズッ……アンスズ!!」
ヘルマンは握るナイフをグリグリと左右に回し、アンスズに更なる苦痛を味あわせる。
「…こうなるってことだ。わかったな?」
「くそっ……!」
「痛いよぉ…痛いよぉ…!!助けてっ……助けてよいつ―」
「ぎゃーぎゃー喚くなクソガキ」
「あああああっ!!」
あまりの痛みで叫ばずにいられなかったアンスズのもう片方の手に、ヘルマンは容赦なくナイフを突き立てる。
「―っ…止めろ!!」
ヘルマン達は勿論、目の前で大切な仲間が傷付けられているというのに何も出来ない非力な自分に、斎は悔しさと苛立ちを覚えずにはいられなかった。
「一体何が目的なんだ!」
「何が目的……?」
ゆらりと動いたヘルマンはナイフを乱暴に取ると、刃先に残った血をアンスズの服で拭い取り、その場に立ち上がる。
「…俺達がお情けで目を瞑ってやっていたのに最近図に乗りすぎなんだよテメーら…」
「調子に乗り過ぎって……あんた達の許可を得る必要なんてないだろ!」
「うっせーんだよクソガキ!!元々あそこら一帯は俺等が仕切ってたんだよ!後からのこのこやってきたガキ共はテメェ達だろーが!」
「……あんた達の縄張りだか何だか知らないが、俺達の家は俺達の物だ。絶対に譲らない」
「誰があんなきたねぇ家なんかいるか。お前達みてぇなクソガキなんてクソ喰らえだ。…たぁだぁ〜?」
ヘルマンは舌なめずりをする。
「あの、瑪瑙とかいう女は話は別だ」
「―っ!!」
「お前等は全員殺す。…だが、あの女だけは俺等が可愛がってやるから安心しろ」
「ふざけたことを言うな!アンスズとパースだけでなく、瑪瑙にまで何かしたらっ……」
斎は思わずヘルマンの胸倉に掴み掛かってしまう。
「何かしたら……どうすんだ?ああ?俺達を皆殺しにでもするのか?」
ゲラゲラと笑い出す男達。
「ところでよ…お前がクソガキ共のリーダーなんだろ?」
「っ………」
ヘルマンは斎に胸倉を掴まれたまま、斎を見下し、嘲笑うような表情で続ける…
「お前が此処にいるって事は…あのボロ屋には役立たずのガキ共しかいないって訳だ…」


[ ↑ ]

ACT.07 << Story Top >> Next