+ ACT.08  誘拐と脅迫 そして... ( 2/2 ) +
Back << Story Top >> ACT.09




*



「…瑪瑙、大丈夫か?」
瑪瑙の容態を看に来た要は部屋にそっと入ると、静かに声を掛ける。
「―要君。うん、大丈夫。大分楽になったよ」
瑪瑙はゆっくりを上体を起こし、笑顔で要に答える。
「斎君の姿が見えないけど…どうかしたの?」
「―あ、ああ…。ちょっとな、仕事に時間が掛かってるみたいで遅くなるらしい」
「そっか…。私も早く元気にならなきゃ!」
「…そうだな。それじゃあ何かあったらすぐに言えよ?」
「うん。ありがとう」
要は瑪瑙の容態を確認すると、足早に部屋を後にする。
その足で広場に戻ると、斎やアンスズ、パース達を案ずる少年達の重い雰囲気が室内に漂っていた。
「…お前が此処にいるなんて珍しいな」
要は広間の出入り口付近に立っていた朱羅に声を掛ける。
「状況が状況だから、出来る限り固まっていた方が良いと思って」
「……協調性があるんだかないんだかわかんねぇな、お前…」
少々呆れたような表情でそう言うと、要は朱羅から離れようとするが―
「って、何だよ」
不意に、朱羅が要の服の裾を掴む。
「―来る…」
「…あ?来るって何が―」
要が朱羅に問おうとした次の瞬間―

―ガシャァァァン…!!
「「わああああ!!」」

広間の窓が割れる音と同時に、その衝撃音に驚いた少年達の声が響き渡る。
「一体何だって―!!」
要は目の前に飛び散るガラスの破片を見て駆けつけると、不意に横から突き飛ばされる。
「おわっ…!」
そのまま床に崩れた要だったが、すぐに顔を上げる。
「…って朱羅…!」
「―っ…侵入者だ……!」
朱羅は、太い鉄パイプで要を殴ろうとした男の前に立ち、細い腕で受け止め、男の力を利用して反動の力に変換すると、鉄パイプを両腕で弾き返すと、間髪入れずに男の顎を殴り上げる。
殴られた衝撃が脳に直接伝わったその男はそのまま床に倒れ込み、昏倒してしまった。
「…す……すげぇな…お前……」
「他にも侵入者はいる!ぼさっとするな!」
「っ…!」
要は一瞬のうちに勝負をつけてしまった華奢な朱羅の身のこなしに見惚れていたが、朱羅に喝を入れられ、我に還るとすぐにその場に立ち上がる。
朱羅に言われてから周囲を見渡すと、ホームに侵入してきたのは確かに今、床で昏倒している男1人だけではなく、他にも何人か視界に入る。
「くそっ…朱羅!お前は瑪瑙を頼む!他の奴らは俺が片付ける!」
「ああ…!」
要はそう言うと、目の前で侵入者に襲われている少年達の元に駆け寄り、朱羅は瑪瑙の部屋へと急ぐ。
「瑪瑙…!」
バン!と扉を勢いよく開けると―
「朱羅君…!」
既に瑪瑙の部屋には侵入者の男が1人おり、瑪瑙を担ぎ上げようとしていた。
「っ…!」
敵が1人であることを瞬時に確認した朱羅は男の元へ駆ける。
「ちっ…!」
男は瑪瑙を抱え上げたまま舌打ちし、正面からやって来る朱羅を殴り飛ばそうと身構えるが―
「なっ…!」
つい数秒前まで確かに目の前にいた朱羅の姿が消えている。
男は目を丸くし、周囲を見渡すが、彼の姿はない。
「くそっ…!何処に行きやがっ―」
「―瑪瑙は返してもらう」
姿は確認出来ずにいたが、不意に朱羅の声が男の耳に届いた次の瞬間―
「ぐああああ!」
「わっ…!」
いつの間にか手に持っていた鉄パイプで朱羅は男の両足の向こう脛を思い切り殴り、男の体勢を崩す。
男の腕から解放された瑪瑙を抱き上げ、すぐ横に下ろすと、朱羅はすぐに倒れ込んでいる男の背後に回り、太い首に回した両腕できつく締め上げる。
「がっ………あ、ああっ………」
すると、男はすぐに意識を失い、全身から力が抜け、床に寝転がってしまった。
「朱羅君っ…!」
「―っ!…………怪我はないか?」
男を昏倒させた朱羅は瑪瑙の傍に駆け寄る。
すると瑪瑙は朱羅の名を呼び、正面から抱きついてきた。
「っ…うんっ……大丈夫。何処も怪我はしてないよ………!」
朱羅に抱きついたまま問いに答えた瑪瑙の身体は、小刻みに震えていた。
「…瑪瑙は何処か人目につかないところに隠れていろ。他にも侵入者がいるから片付けてくる」
「っ…!」
瑪瑙は眉を顰め、朱羅の目を見る。
「大丈夫だ。何かあったらすぐに叫べ。俺がすぐに駆けつける。いいな?」
「っ………うん………」
瑪瑙は頷き、素直に朱羅を解放するが、すぐに顔を伏せてしまった。
「………」
「―あ……わ、私、隠れてるね…!」
瑪瑙は朱羅が無言で自分を見つめていることに気が付くと、慌てて立ち上がり、その場から去ろうとする。
「―瑪瑙…」
「―っ…!」
去ろうとする瑪瑙の腕を掴み、引き寄せると、朱羅はそのまま瑪瑙の額にキスをする。
「っ…………」
瑪瑙は朱羅の予想外の行動に、ただ目を丸くすることしか出来なかった。
「お前は俺が護る」
朱羅はキスを止めると、瑪瑙の目を真っ直ぐに見つめ、そう伝えるとその場を後にした。
「………朱羅君……」



*



「…で、コイツ等…どうするんだよ……」
朱羅が瑪瑙の元から戻り、要達に合流すると、あっという間に残り3人の侵入者達を捕えてしまった。
ホームの離れにある物置小屋に、ロープで厳重に拘束し、口にタオルを押し込められている侵入者達のうち、意識のある1名は目の前に立っている要を睨みつけていた。
「今は眠って貰っていた方が面倒がなくていいと思う」
「………だな…」
要は朱羅にそうアドバイスを受けると、拳を握り、バキバキと指の骨を鳴らし、男にゆっくりと近付いて行った。


「要のあのフルボッコは流石に酷いよなー」
「顔が変形してたんじゃね?」
広間に戻って来た要や朱羅達は応急処置として、不要になった服や布を使い、簡易カーテンを作り、割れた窓ガラスに取り付けていた。
「お前ら!駄弁ってねぇで手伝え!」
「ほーい」
「あいあいさー」
要に怒鳴られ、会話を楽しんでいた少年達は渋々手伝いをし始めた。
「なぁ要…」
「なんだ」
「斎達の所に行かなくていいのかな…俺達……」
要が乗る脚立を支えている少年が、俯き加減でそう問い掛けてくる。
「俺達は此処に残れってアイツに言われただろ。だから、俺達は此処でアイツ等の帰りを待ってる。それが今の俺等の仕事だ」
「っ……でもっ……」
「…ま、心配なのはわかるけどな。でも、また男達がやって来るかもしれねぇし、捕まえた奴らの監視もしてねぇと駄目だろ。それに、瑪瑙はあまり動かさないほうがいい」
「そっか………。…うん、そうだよね………!」
少年は要の言葉に納得したのか、明るい笑顔を要に見せた。

「…あ、あの……朱羅君………」
「―ん?」
要同様、カーテンを取り付けていた朱羅の背後に、瑪瑙がやって来て声を掛ける。
「……あの……ね……」
「どうした?体調が良くないのか?」
「あ!違うの…!体調は大丈夫。……えっと………さっきの……キ、………」
「キ?」
普段は自分の意見や言いたいことははっきり伝える瑪瑙だったが、今の瑪瑙は顔を朱色に染め、どこか落ち着きがなく、口籠っている。
「…キ………キス、は………どういう意味……だったのかな………?」
「……キス?…俺、そんなこと、したか?」
「!」
瑪瑙の顔が更に真っ赤になる。
「朱っ……朱羅君、お、…覚えてない……の…?」
「キス………………―あ、さっき、瑪瑙の額にキス、したな」
「そ…それ…!それの意味……は………」
「意味?…特にない」
「え…!」
「瑪瑙を見ていたら身体が勝手に動いていた。だから、意味はない」
「っ………」
「…済まない。無意識だったとは言え急にキスをしてしまって。―嫌だっただろう?」
「ううん!全然!―あっ………」
瑪瑙の頭上からプシューと蒸気のようなものが吹き上げる様が見えたようだった。
真っ赤になった瑪瑙は、朱羅に顔を見られまいとすぐに顔を下げてしまう。
「顔が真っ赤だぞ、瑪瑙。熱でも―」
「熱じゃないから…!」
朱羅が俯いている瑪瑙の顔色を確認しようと屈んだ瞬間、瑪瑙は朱羅を押し退け、去ってしまった。
「……何だったんだ……?」
朱羅は、そんな瑪瑙を見つめ、ポツリと呟いた。


バタンと勢いよく自室のドアを閉めた瑪瑙は、勢いよくベッドに飛び込み、頭から布団を被る。
「っ………」
ぎゅうっと布団の中で身体を小さくする瑪瑙。
「………どうしちゃったんだろう……私………」
瑪瑙をぽそっと呟く。

キスなら斎や他のメンバー達にも、額や頬、髪の毛にされることは少なくなかった。
それなのに、何故か朱羅から受けたキスには、本人にその意味を尋ねてしまう程、意識している。
そんな自分に、瑪瑙は混乱してしまっていた。

「……朱羅君……無意識だったなんて………」
瑪瑙は眉を少し顰め、顔を赤く染めながら複雑な表情で呟いた。



*



「がはっ…!」
「斎………!」
ジェリクの悲鳴に近い声が周囲に響き渡る。
そして、その後に続くのは男達の嘲笑。
「"仲間達には手を出すな。代わりに俺を好きにしろ"……ねぇ…」
「はっ……はっ………ぁ、………」
瞼や頬は腫れ上がり、口や鼻からは血が流れ出ている。
何度も蹴り飛ばされた腹部には男達の足跡や土がこびり付き、肋骨や脚は、もしかしたら折れているかもしれない。
それでも斎は、強い意識を失わずにいた。
「随分とご立派な仲間意識ですことぉ…」
「っ………」
ヘルマンは靴の爪先で斎の顎を持ち上げると、吐き捨てるように嘲笑を浮かべる。
「それじゃあそうだなぁ……」
「ひっ…」
ガタガタと震えるパースを見るヘルマン。
「おい、お前…」
膝を付かされているパースの目の前に移動すると、ヘルマンはナイフをパースに手元に落とす。
「それでアイツを殺れ」
「っ…………え………?」
パースの目が見開く。
「お前がそれでアイツを殺れたら、お前達への暴力はすぐに止めてやる。な?いい条件だろ?」
「俺っ………が……斎を………?」
パースの身体が、更に小刻みに震え始める。
「本当ならこんな条件なんて出さねぇんだぜ?あ〜あ俺ってばやっさしぃ〜」
ヘラヘラと嗤うヘルマン。
「殺らねぇんだったら………」
ヘルマンはしゃがみ、パースの耳元で囁く。
「お前、生きたまま生皮剥がされて、内臓引き抜かれながら殺されるんだぜ……?」
「ひっ…!!」
「ひゃはは!!怯える顔ってホント…ゾクゾクするよなぁ…。……あ」
その場に立ち上がったヘルマンは、何かを思い出したのか、パースの周りをうろついていた脚を止める。
「あの…なんつったっけ………ああ、朱羅だ。アイツも朱羅とかいう奴、アイツも殺さずに俺等の玩具にするって手もあったなぁ。顔は女みてぇに綺麗な面してるみたいだしなぁ」

「おやおや…彼には、手を出すなと言っていたはずだけれど?」

それまでこの場で聞かれなかった透き通った美しい声が耳に入り、革靴が地面を鳴らす音が近付いてくる。
「ああ?邪魔する気か?テメェ…」
ヘルマンは相手を確認すると怪訝な顔をするが、他の男達が本能的に怯えだす。
「テメェら!こんな奴に怯えるんじゃねぇ!」
ヘルマンは動揺している仲間達を一喝する。
「ふふ。もっとも、君達のような低脳な野蛮人に、彼をどうこうすることなど出来ないがね」
「…っだとぉ…」
「―千隼斎君だね。私は瑠唯。朱羅の知り合いさ」
瑠唯は斎の横で膝を折り、僅かに開いた斎の目を真っ直ぐ見つめ、自己紹介をする。
「瑠唯っ………さん……?」
「朱羅が世話になっているようだね。ああ、安心しなさい。朱羅も、君の大切な彼女も、皆無事だよ」
「瑠唯…てめぇ!!」
「私は何もしていないよ。…だが、君達には…制裁を与えなければならないね。そうでないと君達の仲間がまた、契約を破ってしまうかもしれないからね」
瑠唯がそう言い、手を軽く上げると、いつの間にか姿を現していた瑠唯の部下達が男達全員の頭部に銃を当てていた。
「千隼君。君達は帰りなさい。私の部下がホームの近くまで送ろう」
にこりと笑う瑠唯。
「…初対面のっ………俺達を……何故、助けてっ………くれるんですか…」
「それは君が朱羅に問われた質問じゃないのかな?」
「っ…!」
「まぁ…結果的にそうなるかもしれないが、私の目的は君達の救出ではなく、彼等への制裁だからね。恩を感じることはないよ。ああ、後……朱羅に宜しく伝えてもらえると嬉しい」
瑠唯が穏やかな笑みでそう言うと、男達に銃を当てている者達とは別の部下が斎達に肩を貸す。
斎達は瑠唯をみつめたまま男達に連れられ、その場を去って行った。
「何勝手なことしやがんだこのクソ野郎が!!」
「…ふぅ。相変わらず君は品のない言葉ばかり使うのだね…」
目を瞑り、首を軽く左右に振りながら瑠唯はヘルマンに言う。
「っ…だとぉ!!」

―パァン

ヘルマンが瑠唯に飛びかかろうと動いた次の瞬間
何かが弾け飛ぶような甲高い音が周囲に響き渡る。

「―学習しない低脳は嫌いだよ」
瑠唯は凍てついた瞳で脳天に穴が開き、地面に崩れ落ちるヘルマンに穿き捨てる様に言う。
ドクドクと血が一気に広がり、地面を赤黒く染め上げる。
「全員殺せ」
瑠唯は部下達にそう告げると、近くに駆け寄って来た1人の部下に、先程撃ち放った銃を手渡す。
「…ああ、それと…」
瑠唯は口元を三日月に模らせながら続ける―

「肉塊となった彼等の一部を、BHの本部に送りつけておくように」


+ ACT.08  誘拐と脅迫 そして... +  Fin ...

[ ↑ ]

Back << Story Top >> ACT.09