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自分の生まれ持った場所を捨てた、あの時からずっとあった心の枷
それを緩めることなく、更にきつく締めつけていくことで
犯した罪を忘れず、己の戒めとしていかなければならないと、ずっと思い続けてきた


― だけれど...






 ACT.10  静かに解けゆく心の枷






騒動の翌日の朝食時、昨日はあんな事件が起こり、流石に静かな空気が部屋を纏っていた。
ムードメーカーのアンスズとパースがいないことが更にそんな雰囲気を強め、食事中、会話はあまり多くなかった。

そんな静かな食事を終えた後、斎は皆を集め、前に立ち、話を始めた。
「色々話す事を考えてはきたんだけど………先ずは皆、すまなかった」
斎は皆の前で深々と頭を下げる。
「なんで斎が謝るんだよー!」
「そうだそうだ!」
「俺の、此処のリーダーとしての自覚が足りなかった。BHが最近大人しくしていることにもっと注意していれば今回のことはなかったかもしれない」
「お前のせいだけって訳じゃねーだろ。俺達だって思慮が浅かったんだからな。それにお前だって被害者で怪我だってしてんだろ」
要は未だ頭部に包帯を巻き、体中に青痣を作っている斎に嘆息しながら言う。
「そうだよ斎君。斎君が全てを背負う必要なんてないんだから」
瑪瑙は斎の側に駆け寄り、心配そうに声を掛ける。
「…皆、ありがとうな」
斎は困ったように笑いながらそう言った。
「…で、昨日の一件は、主犯の奴の話を聞く分に、蓄積された俺等に対する不満が爆発したのが原因だったみたいだ」
「俺達、何かしたー?」
「…あ!僕、この間BHの人が落として気付かなかったお金、黙って拾ってきちゃった…」
「あー!それなら俺もこないだBHのヤローにぶつかって胸倉掴まれた!」
「…で、一緒にいた要に助けてもらったんだよなー?」
どうやら皆それぞれ何かしらは思い当たるところがあるらしい。
「俺個人としてはアイツ等の言いがかりにしか考えていないが、今後こんなトラブルが増えても困る。だから皆、自分の行動には各自責任を持ち、十分気を付けること!喧嘩を売るのは勿論、喧嘩を売られても買わないこと!外出する時は必ず俺か要に声を掛け、1人では行かない事!何かトラブルとか困ったことがあったら今まで通りどんな些細な事でも俺や要に言うこと!いいな!」
「「はーい!」」
少年達の素直な返事をする。
「後は…朱羅、ちょっとこっちに来てくれや」
「…?」
朱羅は疑問符を浮かべながらも素直に斎の元へ行く。
「既に皆聞いてるかと思うけど、昨晩、この朱羅が瑪瑙や此処に残っていた皆を護ってくれた!」
「…俺だけの力ではないだろう」
「朱羅さんってばそんなご謙遜を〜。なぁ?要」
「………俺もそうだったが、殆どの奴はコイツのことを信用していなかったと思う。今でも俺はすかしてるコイツのことをいけ好かないと思ってるが……」
要は朱羅を見て続ける。
「瑪瑙が攫われずにいられたのも、怪我人が少なくて済んだのも、コイツの力が大きかったことは事実だ」
「なぁなぁ、要があんなこと言うのって珍しいね」
「だよなー。うーん……でも確かに昨日、男に掴まれた俺を助けてくれたのはアイツだったよ」
ヒソヒソと少年達の声が聞こえる。
「…まぁ………アレだ。昨日も助けになってくれたし、コイツのことを仲間と認めてやってもいいんじゃねーかってことだ…」
照れくさそうに要が言う。
「あー!要照れてるー!」
「慣れないことを言うからだぞー」
「うっせ!」
照れくさそうに朱色に染まった顔を隠すように、要は斎の背後に移動する。
「そういう訳だ。まぁ、すぐに仲良くーなんてことは難しいかもしれないけど、少しずつでも朱羅を仲間と想ってくれたら俺も瑪瑙も…そして要も嬉しい!」
「俺は嬉しかねーよ!」
要のツッコミを受けつつも斎の締めで集会は解散。それぞれが仕事に就く。



*



斎の話しの後、普段通りそれぞれが役割分担表を元にそれぞれの仕事に着く。
ホーム内の破損箇所は昨晩、応急処置をしたとは言え、未だ可哀想なことになっている為、今日の作業はホームの修復作業がメインとなる。
また、診療所で治療中のアンスズとパースのお見舞いも、勿論忘れてはいない。

斎は買出しメモを買出し当番の少年達に渡しに行く途中、朱羅を見つけると声を掛けた。
「朱羅。ちょっと話があるんだ」
「……ああ」
「此処じゃアレだから…俺の部屋で」
そう言うと、斎は朱羅を自分の部屋に案内する。
斎は朱羅を椅子に腰掛けさせると、自分は閉まっているドアに背中を預け、早速本題に入る。
「昨日、瑠唯さんの話が出た時のお前の様子を見てさ、触れない方がいいんじゃないかと思ったけど、今後俺達にも何か係わり合いがありそうだし、やっぱりお前に話を聞きたいんだ」
「…どんな話だ?」
「そんな身構えるなよ。お前と瑠唯さんの関係は出来る限り触れないから。…まぁ、お前のことがもっと知りたいっていう欲は今のところは押さえ込んでおくよ」
斎はそう言うとあははと笑ったが、すぐにその笑みは消えた。
「…で、俺が聞きたいのは、瑠唯さんが何をしている人なのか、ってところなんだ」
「………」
「…って言うのも、昨日瑠唯さんとは少ししか話さなかったんだけど、BHの男達との話を聞いてると、瑠唯さんとBHが何か契約みたいなものを結んでいるみたいなんだ。"契約違反をした君達に制裁を与えないと"…みたいなことも話してた」
「………」
「BHの奴等は瑠唯さんに何か弱みを握られているっつーか、瑠唯さんと上下関係にあるっつーか…そんな雰囲気だったんだ。BHのことは俺達なりに調べてきてはいるけれど、今までどこかと組むなんてことは勿論、誰かの傘下に入るなんてこともなかったからさ。瑠唯さんがそれだけ有能な人なのかと思って」
「………"Asura"」
「…え?」
「瑠唯さんが経営する会社名だ」
「…Asuraって…どっかで聞いたことがあるな…」
「…Asuraは主に新薬の研究、開発、販売で利益を得ている企業で、瑠唯さんはそこの最高責任者」
「ああ!ヨデーリ婆ちゃんトコのテレビでそういや見た!あの若さで社長なんて?すっげぇなぁ」
「あの人は有能だ。元々備わっている知識や技術、身体能力だけでなく経営能力や話術、読心力も巧みで、次々とライバル企業を吸収している」
「へぇ〜…。やり手のカリスマ社長ってとこか?」
「…まぁ、そういう事だ。…でも、あの人がBHという組織とも呼べないような集団に手を出すとは考えにくいが、…あの人の考えていることはよくわからない。…それに……」
「ん?」
「…組織を出る俺に、BHの情報を盗み出すよう言ったのもあの人だ」
「BHの情報……ってああ!お前と出会った時のアレか…!」
「…まさかこんな形で接点を持つとは思ってもいなかった…」
 
―また あの人の思惑通りなのか…

朱羅の頭にそんな声が響く。
 
「んー…でもお前が俺達のところに来ることはいくらなんでも瑠唯さんには予想もつかなかっただろうし」
「………そうだな」
朱羅は斎にそう返事はするものの、彼がすることに無意味なことがないことを知っている朱羅にとって、自分にBHのデータを盗ませたのも、その途中で斎や瑪瑙達と出会ったのも、あの人の思惑通りなのではないかと考えざるを得なかった。
「まぁ、あれだ。少なくとも、脳みそが筋肉で出来たようなBHの奴等より話は出来るみたいだったし、結果論ではあるけど瑠唯さんは俺達を助けてくれた訳だし」
「………斎」
「ん?」
朱羅は斎の目を真っ直ぐ見る。
「あの人は利己的な人だ。どんな些細な行動にも意味があり、自分の得にならないことはしない」
「朱羅……」
それだけ言うと、朱羅はその場を後にした。



*



部屋を出た朱羅の脚は、自然と瑪瑙の部屋に向かう。
瑪瑙の部屋をノックし、瑪瑙に入ってと言われ、朱羅は入る。
「朱、朱羅君…!」
瑪瑙は朱羅の姿を視野に入れると、頬が緩やかに紅潮する。
「っ……あ…えっと………朱、朱羅君が自分から来てくれるなんて初めてだね…!」
まだ体調が本調子ではない瑪瑙はベッドの上で背中に枕を当て、上体を起こしている。
「―え………あ…」
朱羅はそこで始めて無意識に瑪瑙の元を訪れていたことに気付く。
「済まない。特に用もないのに俺……。仕事もあるし俺は戻―」
「―!待って!」
瑪瑙は部屋を出ようとする朱羅を引き止める。
「折角来てくれたのにお話もしないで出て行っちゃうの…?」
「………」
「昨日、朱羅君頑張ってくれたし、お仕事はちょっとお休みして……良かったら此処に座って?」
瑪瑙はベッドの隣にある椅子に腰掛けるよう声を掛ける。
「……ああ」
朱羅は素直に腰掛ける。
「要君ね、あんな風にぶっきだぼうだけれど、根はとっても優しい人なんだよ」
「…え?」
「斎君に負けないくらい仲間思いなの。口がちょーっと悪いから勘違いされることも多いんだけどね」
くすくすと笑う瑪瑙。
「そんな要君が朱羅君を認めてくれて、私、何だかとっても嬉しくて」
「…何故お前が喜ぶんだ」
「だって、私も朱羅君が好きだから此処にいて欲しい、皆に認めて欲しいって思ってるんだもの」
にっこりと嬉しそうに微笑む瑪瑙。
「……俺は、此処にいたいのだろうか…」
「朱羅君?」
「……始めは長居するつもりは全くなかったのに……明日こそは出て行こうと思っているのに…」
瑪瑙は黙って朱羅の話を聞く。
「あっという間に昼になり、夕方になり、夜になり………気が付くと1日が終わっている」
「ふふ。そうだね。1日はあっという間だよね」
「…出て行きたいのならいつでも出て行ける。買い物の途中でも皆が寝静まった後にでも。…それなのに俺は今も尚、此処にいる」
「…私には朱羅君の本意はわからないけれど…少なくとも、本気で此処を出て行きたいとは思っていないんじゃないかな?」
「………」
「でも、此処にいたいのか、それとも何れは出て行くのか。それを決めるのは朱羅君自身」
「……そうだな…」
「でも、急いで答えを見つける必要はないと思うの。好きなだけ此処にいて欲しいし、そうやって過ごしていく中で決めればいいんだよ。…ね?朱羅君」
瑪瑙は優しく微笑みながら言う。
「…瑪瑙には諭してもらってばかりだな」
「諭す?私が朱羅君に?そんな立派なものじゃないよ。私の個人的な希望だったり願いだったり…私自身の経験談でしかないし」
「…瑪瑙は、俺を除けば1番新参者なのか?」
「うん、そうだよ。斎君や要君と数人の子達以外は私も含めて皆後からやって来て、一緒に暮らすようになったの」
「そうか」
「最初はほんの5、6人くらいだったのに、今では20人弱くらいにまで増えて、凄く賑やかになったって斎君が話してた」
「…それだけ居心地がいいんだろうな」
「うん、そうだね。そうじゃなきゃこんなに増えなかったし、私も此処にいたいと思わなかったと思う」
「………今朝、斎や要に"仲間として認めてもいいんじゃないか"と皆に話しているのを見て、初めて嫌だと感じなかった。今までは出来る限り仲間を作らないようにしてきて、仲間の輪の中に入れられることに対し、好ましく思えなかった。……だから、迷惑を掛けてしまうかもしれないけれど…」
「…うん」
「………もう少し、此処にいたいと思う…」
「うん…!」
ぱぁっと花が咲いたような笑みを見せ、瑪瑙は返事をする。
そんな話をしていると、ドア越しに斎の声が聞こえてくる…
「ってちょ!あんな押すなってドアが壊れるだろ!」
疑問符を浮かべる瑪瑙と朱羅だったが、遂にドアが重さと押してくる力に耐えかね、勢いよく開いてしまい、斎を先頭に、少年達が雪崩のように部屋の中に流れ込んでくる。
「斎君…皆……!」
「………盗み聞きか…」
「アタタタタ………。っ…朱羅、人聞きの悪い物言いをするな!つか、今までずっと出て行くかどうか悩んでたのかよ」
「………思ったより怪我は酷くはなかったが、お前は一応怪我人だろう。大人しくしていたらどうだ」
「体力馬鹿自然治癒力馬鹿な俺が大人しくなんてありえん!」
「でさでさー朱羅は此処にいるのかー?」
「斎に恩は恩で返すようにって言われてるから、俺達も朱羅に恩を返すんだ。だから勝手に出て行くなよ!」
「そうだそうだー!」
「あ、でも瑪瑙は皆の瑪瑙だからな!」
わいわいと騒ぎ出す少年達。
「コイツ等の言い分もあるけど、此処にいるって朱羅自身が決めたことなんだから、暫くはちゃーんと此処にいろよ?」
「暫くって……期間はまだ決めていない」
「俺達のことを知るのに、1年間だって短いんだからなー」
「っつか朱羅!今日は俺達とヴァル爺さんちの掃除だぞ!早くしろ!」
「っ…引っ張るな」
「ヴァル爺さん、時間に煩いんだから早く行くぞー!」
朱羅は少年2人に両手を掴まれ、強引に連れて行かれる。
「…ふふ。少しずつ朱羅君も打ち解けてきてるみたい」
瑪瑙は少年に手を引っ張られながら去っていく朱羅の後姿を見ながら嬉しそうにそう語る。
「…だな!」
そして斎もまた、少しずつ皆に馴染んできている朱羅の姿を見る事が嬉しく、喜ばしい事になっていた。


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