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彼との再会は唐突だった






 ACT.13  本当の願い






いつもの様に夜遅くまで斎の目を盗みながら、こそこそとお喋りにふけている少年達に囲まれながらの就寝を終えた翌日…
今日の朱羅の仕事は買出しだった。
今回も斎の書いたメモを元に、資材屋でホームの細かな部分を修復する材料を買い、斎の顔見知りの道具屋に使用する道具を借りに行った。
同じ様な道具を売っている店がいくつかあるが、斎が自身の広い情報網を使い、頑丈で使い勝手が良く、更に安価な店を選りすぐり、メモにまとめた成果もあり、店を回る時間が掛かってしまったとは言え、朱羅が予想していた相場の半額近くの値で全ての道具や材料を揃えることが出来てしまった。
朱羅は、斎に関心しながら顔を上げると、夕刻近くになるとよく見られる呑みに向かう人々の姿や、少ない食材を手にし、家路に着く人々の姿が在った。
そろそろホームに戻らないと、腹を空かせた少年達に抗議されるはめになってしまう為、朱羅はホームへと脚を運ぶ。

― すると…

「やぁ朱羅、偶然だね」

ホームに戻る途中、朱羅はスーツ姿の瑠唯と再会した。

スラム街には珍しく、周囲に溶け込むことが出来ない、一見してもわかる上等なスーツ。
そして、彼自身の凛とし、凍てついた空気が更に彼をこの場所には似つかわしくない存在にしていた。
そんな瑠唯には3人のSPが付いているが、瑠唯は彼らを車に戻るよう促すと、SP達は朱羅を一瞥し、瑠唯に一礼をしてその場を去って行った。
SP達が去ると、瑠唯は朱羅に視線を戻すが、朱羅は瑠唯を警戒し、無意識のうちに身構えていた。
「…何をしに来たんですか…」
「この近くに我が社の支部を出すことになってね。その視察だよ。そう言う君も、此処で何をしているのかな?」
「…白々しい事を言うんですね」
「酷い言い方だね、朱羅。…まぁ、君が何処に住み、誰と共にいるのかは勿論、随分前から把握済みだけれどね」
くすくすと笑いながら答える瑠唯。
「…一体何をするつもりなんですか」
「可笑しなことを聞くね、朱羅。ビジネスに決まっているじゃないか。これでも私は代表取締役だからね」
「………」
「―そんな事より…」
瑠唯はスッと脚を動かすと、朱羅の片手を掴み、もう片方の手で朱羅の頬に触れ、顔を近付ける。
「…また痩せたね?朱羅」
「―触らないでくださいっ…」
朱羅は空いている片手を瑠唯の方に置き、押しやろうとするがビクともしない。
「元々細身で食べても代謝が良くてなかなか肉がつかないのだから、きちんと食べなさいと言っていたのに」
「っ…やめっ……!」
瑠唯は掴んでいる朱羅の腕を引き寄せると、朱羅の首筋に口付けながらもう片方の手を朱羅の服の中に滑らせる。
「…声を上げてもいいのかな?皆に、君の痴態を見られてしまうよ?」
「―っ!」
朱羅はハッとし、周囲を見る。
時刻は夕飯時。
仕事を終えた者も仕事のない者も、通りの端で買って来たり何処かで手に入れてきた酒を呑み始めており、人通りも少なくない。
「…そう、いい子だ」
瑠唯は大人しくなった朱羅の髪にキスを落とす。
「…それにしても久し振りだね…朱羅の甘い香りは…」
「っ……」
瑠唯は朱羅の項辺りに鼻を当て、朱羅の匂いを嗅ぎ始める。
「……君の香りを嗅ぐと……」
「!」
瑠唯は朱羅の耳元で囁くと、朱羅のズボンのベルトに手を掛け、静かに外す
「―興奮し、欲情してしまっていけない……」
「やめっ……………―やめてください!」
ズボンのチャックを下ろそうとする瑠唯に対し、朱羅は反射的に大きな声を上げてしまった。
「此処では嫌だと言うのなら、私の部屋でするかい?」
「俺は、貴方の元には戻らないっ……!」
朱羅は必死に抵抗し、瑠唯を睨み上げる。
「…だから朱羅、それは逆効果だと言っているだろう?そんな目で見つめられたら私も益々歯止めが利かなくなってしまうじゃないか」
「やめっ―」

「…やめてくださいよ、瑠唯さん」
「っ!」

突然、第三者の声が朱羅と瑠唯の耳に入る。
「―おや、斎君じゃないか。あんな怪我をしたというのに元気そうだね。目を見張る回復力だ」
にこりと微笑む瑠唯。
「―そいつ、俺の大事な仲間なんで返してもらいます」
「―ぁっ…」
そう言うと、斎は朱羅の手を掴み、瑠唯から引き剥がすように朱羅を自分の元に引き寄せ、自分の後ろに隠す。
「人の楽しみの邪魔をすることは関心しないよ?斎君」
瑠唯は朱羅に触れていた自分の指を愛おしそうに舐めながら言う。
「未成年に淫行しようとするような人に、そんなことを言う資格なんてないと思いますが?」
「斎、駄目だ!その人に―」
「朱羅は黙ってろ」
「―っ…」
斎の怒気を含んだかのような、有無を言わせぬ威圧を感じる瞳と声に、朱羅は言葉を飲み込んでしまった。
「君はやはり、仲間意識が相当強いようだね。人は助け合って生きていくものだからね、それも当然か」
にこりと微笑む瑠唯。
「思ってもいないことを言わないで下さい」
「おやおや。まだ会って2度目だというのに随分な物言いだね」
「朱羅が貴方を嫌厭していた意味が漸くわかりました。貴方は"悪い人"だ」
「それは視る視点によって変わるんじゃないかな?」
そんな話をしていると、車に戻ったSPの1人がやって来て、瑠唯の耳元で何か話している。
「そうか、わかった。…朱羅、また君に会いにくるよ」
にっこりと微笑みながらそう言うと、瑠唯は朱羅と斎に背を向け、去って行った。
「………」
朱羅は去っていく瑠唯を数秒間見つけた後、斎を見上げる。
すると、斎は朱羅の手を掴んだまま、無言で歩き始める。
「―……斎っ……!」
何も話さず、自分の手を掴みながら足早に歩く斎を呼ぶ朱羅だったが、やはり反応はなかった。
「……斎っ………―痛いっ…!」
朱羅が痛みを訴えると、斎は唐突に脚を止める。
「………」
斎は無言のまま、強く握っていた朱羅の手首を解放する。
「………可笑しな所を見せてしまって済まない……」
朱羅は長い睫毛の影を菫に落とし、斎が強く掴み、跡が残った自分の手首に少し触れながら言う。
「…何でお前が謝るんだよ。お前が謝ることじゃねーだろ」
「………」
「………瑠唯さんトコにいた時、"ああいう事"、ずっとされてたのか?」
「……………最初の頃はなかった。…けれど、瑠唯さんが俺に目をつけてからは………」

― 瑠唯に触れられた箇所が疼く
それと同時に、胸がキリッと痛むのを感じた朱羅は身体を小さくする。

「そりゃあ驚いたさ。でも、此処じゃあ珍しいことじゃないしな」
斎は陽が全くささない空を見上げ、続ける。
「金がない奴が売れるものといったら自分の身体くらいなもんだろ。…ホームの仲間の中にも何人かはそういう商売してた奴もいる……」
斎は悔しさと哀しみを混在させたような表情を見せるが、空から視線を移し、朱羅の目を真っ直ぐ見つめる。
「でも、もうそんな事する必要ない。お前は俺等の仲間なんだからな」
斎は朱羅の肩を掴み、朱羅に言い聞かせるように力強く言う。
「………仲間………」
「だろ?違うのか?」
朱羅は斎の問いを聞くと顔を挙げ、斎の目を真っ直ぐ見る。
「………」
斎は真っ直ぐな強い瞳で朱羅を見つめ、答えを待つ。
「……っ……」
朱羅はポスッと斎の胸元に額を当て、顔を再び俯ける。

― 急いで答えを見つける必要はないと思うの。好きなだけ此処にいて欲しいし、そうやって過ごしていく中で決めればいいんだよ

― 本気で何かを、誰かを護りたいと思うのなら、まずは己を大事にし、己に素直になることじゃ

瑪瑙やヴァルの声が朱羅の心に優しく、暖かく響いてくる
本当は、以前から気付いていたこと
感じていたこと

でも
また失うのが怖かった
また壊してしまうのが怖かった

だから、気付かない振りをしてきた

― でも
自分の本当の願いは、いつまでも心の奥底に閉じ込めておくことが出来ない
閉じ込めておけばおく程、その願いは強くなり、自分の中に留めておけなくなってしまっていたのだから…



「……皆と…………斎や瑪瑙…ホームの皆と……………仲間になりたい……」



斎は朱羅のその答えを聞くと、朱羅の細い身体を思い切り抱きしめた。
「やっと言ってくれたな、朱羅!」
自分を抱きしめる斎の温もりが、不思議と不快ではなく、朱羅が無意識に斎の胸元に軽く擦り寄ると、斎は更に強く抱きしめた。


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