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同じだ…

彼は、彼女と"同じ"になってしまった…

でもそれは…



俺の所為なんだ






 ACT.16  別離の意思と別離の言葉






今日の朱羅の当番はホーム内の清掃だ。
朱羅を含めた4人の少年達は掃除用具を準備し、それぞれ担当箇所を決め、仕事を始めていた。
ホームは古びてはいるが、毎日の掃除を欠かさず行っている所為か、実際の築年数より綺麗に見受けられる。
リーダーである斎の物持ちの良さもあるが、この区域の環境もそれを支えていてくれるのだろう。
人間は環境が変わっても、その変化に適応していかなければ生きては行けない。
生きることを放棄せず、こんな場所でも必死に生きようと、毎日生きている者も少なくはない。
少なくとも此処は、そういう場所だった。
仕事や家族、恋人といった大切なものを失って流れてきた者が多いが、中には犯罪を犯した者もおり、治安が良いとは言えないが、だからと言って悪意を持った人間ばかりが屯っているという訳ではない。
互いに支え合い、助け合って生きている者達が確かにいるのだ。

「…ん?」
朱羅が担当箇所であるホームの物置部屋を整理していると、ホームの玄関先が賑わっている。
何事かと思い、朱羅は玄関に向かうと、そこには久し振りに見た顔があった。
「アンスズもパースも、もう大丈夫なのか?」
「まだ完全に治った訳じゃないけど、ずっと病院にいるってのも気が病むから」
「そうそう。あそこ、綺麗なとこじゃないし」
怪我を負い、入院していたアンスズとパースが戻って来たいた。
そんな2人を取り囲んでいる少年達と、2人の前に立ち、様子を伺っている斎が見えた。
「それに、なんだっけ…あん時助けてくれた男の人!」
「あの人がいい薬をくれたみたいで、治りも早かったんだよ!」
「っ…」
"助けてくれた男の人"という言葉に、朱羅は反応を示す。
「…そっか。何にせよ、2人が戻って来てくれたのは凄く嬉しい。おかえり、アンスズ、パース」
斎は敢えてその男性の事には殆ど触れずにそう言うと、2人の頭を撫でた。
「…と、そうだった。朱羅ー!朱羅はいるー?」
不意に何かを思い出したアンスズが朱羅の名を呼ぶ。
「…?」
疑問符を浮かべながら朱羅はアンスズの方に進む。
「あ、いたいた!はい、コレ」
そう言ってアンスズが渡してきたのは、赤の封蝋で封をされている小さな封筒だった。
「……これは?」
「あん時助けてくれら人が、朱羅にそれを渡して欲しいって」
「!」
「…あの時以降、会ったのか?その人に」
無言のまま目を見開く朱羅の横で、斎が静かなトーンで問う。
「1回だけ。"私の所為で済まなかった"って、薬と治療費を届けてくれたんだ」
「いい人だよなーあの人!」
「…余計な事を……」
「ん?斎、なんか言った?」
「…なんでもない。俺がお前達の退院した後に支払いに行く予定だったけど、その治療費はどうした?」
「医者が喜んで受け取ってた。実際の治療費の倍の額だったからって」
「チッ…!」
斎は思わず舌打をしてしまう。
「………」
斎同様、眉を顰めた朱羅は手元の封筒の封を切り、中を見る。
中にあったのは、真っ白の上等な便箋1枚。
「………」
朱羅は手紙の内容を読むと、静かに封筒に戻した。
「…何て書いてあった?」
「……後で話す」
そう言うと、朱羅はその場から去って行った。
「…とりあえず、2人は未だ完治してないんだから無理はするな。いいな?他の皆も助けるように。以上、解散」
斎はそう言い、パンパンと手を2回鳴らすと、少年達はその場を去って行った。
皆が持ち場に戻るのを確認した斎は、朱羅が去って行った方向に急いで向かう。
朱羅がいたのは、斎の部屋の前のドア。そこで朱羅は斎を待っていたようだった。
「ほら。入れよ」
「ああ」
斎は、律儀に勝手に部屋に入らずに部屋の主を待っていた朱羅を中に通し、ドアを閉める。
「…で、何て書いてあったんだ?」
斎はドアを閉め、ドアに背を預けた体勢で朱羅に尋ねる。
「― "治療費や治療薬のことで聞きたいことがあるだろう?18日の午後10時、君を迎えに行く。近くのバーで話をしよう。勿論、君と私の2人だけでね"…と、それだけ書いてあった。あの筆跡は瑠唯さんのもので間違いない」
「18日って…今夜じゃねーか…。ホントにしつこい奴だなアイツッ……!」
ギリッと斎は歯を鳴らす。
「でも、聞きたいことがあるのは事実だ。今夜会って、話を聞いてくる」
「そんな危険な真似、させられないだろ。あの人のことだ、そのまま朱羅を連れて行くに決まってる」
「心配するな。俺は戻ってくる」
「……朱羅……」
どこにそんな根拠があるのかはわからない。
いくら優秀な朱羅であっても、あの人が相手であれば一筋縄でいかないことは斎にも、そして朱羅自身にもわかっている。
それでも、今朱羅が見せる強い瞳には、そんな不安を消し去ってしまうような意思の強さと確信のようなものが感じられた。
「俺の場所は此処なのだとわかったし、俺が望んだことだから」
「……本当に、絶対に戻って来いよ」
「ああ。約束する」
それだけ言葉を交わすと、斎はドアの前から退き、部屋を出る朱羅を通す。
「― 斎」
「ん?」
朱羅はドアの前で脚を止め、斎の名を呼ぶと後ろを振り返り、斎の目を見る。
「心配を掛けて済まない。………それと、ありがとう」
「っ……」
眉を僅かに下げ、謝罪の気持ちを含めながらも、ほんの僅かの間に垣間見られた朱羅の微笑は、斎が初めて見るものだった。
朱羅は自分の気持ちを斎に伝えると、直ぐにその場を去って行く。
「………朱羅、変わったよな………」
ぽつりと、朱羅の背中を見ながらそういう斎は、朱羅につられて困ったような笑みを零していた。



*



「やぁ、朱羅。待っていてくれたんだね」
瑠唯が指定した時間、朱羅はホームから少し離れた場所で待っていた。
そんな朱羅を迎えに来たのは、SP2人を連れた瑠唯だった。
星の瞬きも見えず、月明かりも差し込まない暗闇が周囲を覆ってはいたが、未だ飲み屋等は帰らない客を抱えているようで、店から零れる僅かな灯りが瑠唯の柔和な笑顔を照らしていた。
「…今日は、話を聞くだけです」
「わかっているよ。とりあえずは…ね」
にこりと微笑むと、瑠唯は手でSP達を帰らせるよう促し、朱羅についてくる様視線を向け、歩き出す。
「哀しいことではあるのだけれど、2人きりになるような場所では君も安心して話を聞けないだろう?この辺りではまともなバーで話をしよう。― あ、それと、バーと言ってもマスターにノンアルコールも用意しておくよう依頼していたから安心して」
「………」
「相変わらず君は口数が少ないね。まぁ、キャンキャン喚く犬は私も嫌いだけれどね」
そんな他愛のない会話をしていると、瑠唯がとある店の前で脚を止める。
「此処だよ。私もこの辺りの視察に来た時にはたまに寄る店なんだよ。さぁ、入って」
そう言って瑠唯はドアを開け、朱羅を先に中に通す。
瑠唯が言っていたように、この辺りではきちんとした造りのバーだ。
木造で、所々痛んではいるようだが、店の看板もイルミネーションで飾られており、痛んだ木材も、その痛みが味に感じられるような印象だ。そして、思っていたよりもずっと静かで落ち着いた店のようで、大騒ぎをしているような客の声はなく、皆、静かに酒と語らいを楽しんでいるようだ。
そんな店を一通り眺めると朱羅は脚を進める。
階段を数段上がった先には外の席も設けられており、3人の男女が酒を飲み交わしており、そんな客を横目で見た朱羅は瑠唯に促されたまま、店内に入る。
「ああ、瑠唯さん。いらっしゃい。席、取っておいたからどうぞ」
少々狭いカウンター席の向かい側にいた、髭をたくわえた年配の男性が店内に入る瑠唯を見て声を掛けてくる。
「ありがとうマスター。それじゃあ邪魔するよ」
瑠唯がマスターと呼んだその男性に簡単な挨拶を済ませると、瑠唯は朱羅の前に立ち、店の奥に進んでいく。
「この店はカウンター席がメインだけれど、奥にはテーブル席もあるんだよ」
そう言って瑠唯が進んでいくと、テーブル席が3つ程目に入った。
そして瑠唯は1番奥の席に行くと、椅子に手を掛け、後ろに下げる。
「さぁ、レディーファーストだ」
にこりと微笑みながら、少年である朱羅に対し"レディー"と言う瑠唯だったが、朱羅はそんな彼の言葉遊びは無視し、黙ったまま席に腰を掛けた。
「ふふ。つれない子だ」
瑠唯はそんな朱羅を見ながら嬉しそうににこりと笑うと、自分も向かいの席に腰を掛けた。
「さて、朱羅は夕飯は済ませてきたのかな?」
「ええ。こんな時間ですからね」
「私もさっき車内で済ませてきたところだ。本当なら君ともっと素敵な店で食事をしたいところだけれどね」
「俺は、そんな話を聞きにきた訳ではありません」
ドン、と、拳を握った手をテーブルに置いて音を鳴らし、朱羅は瑠唯の話の首を折る。
「せっかちだね。せっかく久し振りの朱羅と2人きりの一夜を楽しみたいと言うのに…。…まぁ、とりあえず飲み物かな。朱羅は何がいい?」
「………」
「ふふ。それじゃあ…君はアルコールを摂取しても問題ない体質だし、私と同じものでいいかな?マスター、いつものやつを頼むよ」
「はい。少々お待ちください」
瑠唯はカウンターにいるマスターに、少々大きな声でオーダーする。

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