+ ACT.17  少年と少女の追憶 ( 2/2 ) +
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「なぁなぁ、"Asura"って何だ?」
リビングで休憩を取っている少年達の中の1人が、別の少年達に尋ねる。
「Asura…?何だいそれは」
「いや何かさ、今日買い出しに言ったら10人くらいのおっさん達がどっかに向かってて、追っかけてったら何かおっきな土地の周りにぐるっと鉄?の壁が囲んでで、看板がでーんとあってさ」
「それで?」
「何て書いてあんのか読めなかったから、おっさんに聞いたら"Asuraカストレイル支社建設予定地"って書いてあんだって」
「―と言うことは…大きな会社の支社がこの近くに出来るってことなのか…」
「大きな会社なのか?!」
質問を投げた少年が目を輝かせて更に問う。
「…だって支社を建てるくらいなんだから小さな会社ではないでしょう」
眼鏡を掛けた理知的な少年がブリッジをくいっと上げる癖を見せながら答える。
「じゃあじゃあ!俺達も雇ってくれるかなぁ…!」
"ああ、そういうことか"と、眼鏡の少年は質問してきた少年の笑顔の意味を理解する。
「僕達はまだ子供だからね。無理でしょ」
「やっぱそっかー…」
「でもでも、おっきなかいしゃのちっちゃなかいしゃが出来たら、ここも元気になる?なる??」
2人の少年達より幼い少年がひょっこり顔を覗かせながら眼鏡の少年に問う。
「…と言うか、こんな何もない放浪者や僕等のような子供ばかりがいる所に会社を建設しても、いつまでもつか僕は疑問だけれど」
「えー……つぶれちゃうの?かいしゃ…」
幼い少年ががっくりと肩を落とす。
「相変わらずお前は夢がねぇなぁ…」
「現実的なんだよ僕は。君たちとは違って」
ブリッジを軽く上に上げ、眼鏡の少年が最初に質問を投げてきた少年を横目で見ながら先の言葉に異論を投げる。
「おーいお前達、さっきから何話しこんでるんだー?」
そんな少年達を見つけた斎が声を掛け、こちらにやって来る。
「あ、斎ー。こいつがさぁ、ま〜た夢の欠片もないこと言ってくっからさぁ」
「君たちが夢見がちなんだよ」
「はいはい、喧嘩はそこまでそこまで!…で?何の話?」
「斎は"Asura"って知ってる?」
「…もしかして、Asuraの支社の話か?」
先程まで見せていた柔和な斎の表情が厳しい表情に変わる。
「おー流石は情報マスター話が早いねぇ!」
「結構前からそういう話は進んでたらしいけどな。…本当に出来ちまうのか……」
「…どうしたのさ斎。そんな難しい顔して」
「あー……いや、ちょっとな」
「いつきはきらい?かいしゃ、きらい?」
幼い少年が斎の脚にしがみつきながら大きな瞳で見上げてくる。
「そうだな………会社にもよるよ」
「うー…?」
ぽんぽんと自分の頭を撫でてくる斎の歯切れの悪い物言いに、幼いながらに疑問を感じたのか、幼い少年は首を傾げる。
「つーかお前達!休憩時間過ぎてるだろ。さっさと仕事再開しなさい!」
ぱっと、普段の明るい表情に変化させた斎は両手をぱんぱんと2度叩き、少年達の仕事再開を促す。
「ちぇー斎ってば厳しいのー」
「君はいちいち文句言わずに仕事は出来ないのかい?」
「…お前もいちいち癇に障る言い方しか出来ねーのかよ」
「けんかだめ!だめだめだめ!」
斎の脚にしがみついていた幼い少年はぱっと両手を離すと、喧嘩しながら作業場所に戻る2人の少年を追い掛けていく。
「………朱羅も知ってるだろうけど、これは手を打っておくべきか……」
独り言を呟いた斎は、朱羅を探し始めた。
「今日の朱羅は瑪瑙の手伝いだからー……っと、いたいた。おーい朱羅」
「― 斎。何か用か?」
廊下の隅で取り込んだ洗濯物を畳んでいた朱羅に、斎は声を掛ける。
「…って、あれ?瑪瑙は?」
「そっとしておいて欲しいそうだ」
「…なんで?」
「わからない。瑪瑙にも色々考えたいことがあるのだろう」
「…まあ、それは誰にでもあるだろうけど…。瑪瑙の方もちょっと気に掛かるけどさ…朱羅、知ってたか?」
「何をだ?」
「…Asuraの支社がこの地区に出来るって話」
「………やはり事実だったんだな」
「やっぱり知ってたのか」
「…以前瑠唯さんに会ったとき、そんな話をしていた」
朱羅は洗濯物を畳む手を止める。
「俺も朱羅と瑠唯さんの関係を知ってから自分なりにAsuraのことを調べたんだけどさ、ほんとに大企業なんだな」
「ああ」
「そんな大企業の支社が出来たら、きっとこの辺の皆はその話で持ち切りになるだろうし、変に後々話が拗れない様に…」
「俺とAsuraの関係を皆に話しておくべきだろうな」
「……と、俺は思うんだ。俺もさ…朱羅の反応を見ると複雑な関係みたいだから深く知るのは止めておこうとは思ってたんだけど……正直、気になってたんだ。朱羅とAsura…瑠唯さんの関係が」
「………」
「あ、いや、その……瑠唯さんとそういう関係にあったってことまでは話さなくていいとは思うけどさ、昔、朱羅がAsuraにいたこととかを話しておいた方がいいんじゃないかって、俺は思うんだ」
「― そうだな」
「…!」
自分から提案してみたものの、朱羅がYESと言ってくれるかは心配だった斎の目が軽く見開く。
「共同生活をする上で、ある程度自分のことを話しておくことは大切なことだろう」
「…ありがとう。助かるよ、朱羅」
斎は複雑そうな表情を見せてはいるが、感謝の意を伝える。
「…ただ、全てのことはまだ話せない。それでもいいか?」
「ああ。その……あの人と肉体関係にあったことは話さなくていいと俺も思う。まだそういうのわからない奴もいるし…」
気まずそうに視線を逸らしながら答える斎。
「………そういうことではないのだけれど………」
「…ん?何か言った?」
「…なんでもない」
そう答えると、朱羅は再び洗濯物を畳み始めた。



*



真っ白な室内に、一定間隔を空けて鳴る電子音が響く。
視界に入るのは薄緑色の天井。だが、その天井の本来の色は白。
薄緑色として認識されているのは、彼が今、カプセルの中で横になっている為で、そのカプセルの上部が薄緑色の素材で作られていたからだったのだ。
薄緑色の簡易着を身に付け、カプセルの中で静かに横になっている少年を上から覗き込む白衣が数人。
「まさか、本当にまだ生きていただなんて…」
1人の白衣― 淡い茶色のボブショートの女性が少年を見ながら口を開く
「純血種ではなく混血種というところが残念だけどな」
「でも、混血種でも重要なサンプル体であることには変わりはないわ」
細身で長身の眼鏡を掛けた中年の男と、ウェーブの掛かった赤毛をひとつに結った女性が続いて口を開く。
「こんな貴重なサンプルが私達の元にやって来るだなんて……凄いことですね……!」
最初に口を開いた若い女性が目を輝かせ、目を瞑り、じっとしている少年を見つめる。
「でもこの子、御堂家の次期当主だったって話じゃない」
「ああ、あの"呪われた一族"の御堂家か」
カカッと嫌な笑みを見せる男性。
「御堂家って確か…昔は大きな大きなお屋敷に住んでいて、政治界にも影響力があったって一族ですよね…?」
「そ。でも最後の当主は頭がおかしくなって1番下の弟に殺され、もう1人の弟も頭が可笑しくなって、最後にはシリアルキラーになって屋敷の使用人を皆殺しにして姿を消しただか死んだだか…そんな噂は聞いたことがあるわね」
「…ってことは、このサンプルが"姉殺し"の弟くんというわけか」
「……そんな言い方って……」
若い女性が眉を若干顰め、男性を見ながら彼が発した言葉に意義を唱える。
「― 君たち、様子はどうだ?」
「!る、瑠架さん…!!お、おおお、お疲れ様、です……!」
不服さを見せていた若い女性が、声を掛けてきた人物― 瑠架を視界に入れた途端頬が高潮し、しどろもどろになる。
「経過は順調ね。体に数箇所の切り傷や火傷の跡なんかはあったけど、それもそのうち綺麗に治るわ」
「それならよかった」
瑠架は細い銀糸を片手で軽く抑えながら、カプセル内の少年を見つめる。
「兄さんの言っていた通り、とても綺麗な子ね」
「キリス種族は美男美女の集まりだって話もありますしね」
中年男性がカルテを見ながら言う。
「名はなんといった?」
「御堂朱羅です」
「朱羅…ね。目が覚めるのが楽しみだ」
瑠架は表所を変えずにそう呟くと顔を上げ、先程入ってきたドアに向かう。
「朱羅の身体検査と治療、宜しく頼んだ」
それだけ伝えると、彼女は美しく長い髪を軽く揺らしながら部屋を後にした。
「〜〜〜〜〜〜っ………はぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
途端、若い女性が大きな大きな溜息を漏らす。
「あああああ……本当に瑠唯さんって美人さん……おまけに強くて凛々しくて逞しくて……益々ファンになりました…」
両手を頬に添え、恍惚な表情を浮かべながら女性はうっとりと瑠架が出て行ったドアを見つめる。
「あの人は社長と違った意味で何を考えているかわからん人だがな」
男性は経過観察を纏め、今まで確認していたカルテを閉じながら言う。
「その言葉には賛同するわ」
赤毛の女性は男性の言葉に同意を示すとポケットから煙草と、今では貴重品となった銀のジッポライターを取り出し、ドアに向かった。
「私は休憩。戻ってくるまで宜しく」
ドアの方向を見たまま軽い口調でそう言うと、女性は部屋を出て行った。
「…勝手な奴だな…」
チッと舌打をしながら女性の立っていた方向を睨みつけるように見、男性は検査器具の調整をし始める。
「…それにしても………」
若い女性は再び少年を見つめ、憐れみの表情を見せ、続けた ―



「不幸なことばかりが続くこの子には…幸せは訪れないのでしょうか………」



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