+ ACT.18  彼の変化 ( 2/2 ) +
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「なぁ〜んだ!斎が気難しい顔してっからてっきりAsuraの社長はドス黒社長だと思ってたのに、いい奴っぽいじゃん」
間の抜けた声が広間に響く。
「………」
朱羅は、少年のその声に僅かに眉を顰める。
「んでも、人間の内面を、本性を見極めるのは簡単なことじゃないからな」
そう言ったのは要だ。

てっきり「NO」と言われるのではないかと内心考えていた斎だったが、意外にも朱羅が同意してくれた為、善は急げとその日の夕食を終えた後、ホームの皆を広間に集め、朱羅とAsuraの関係について話していた。

「Asuraと朱羅に関係があることはわかりました。…でも、要はそう言ってるけど、一体何に気を付ければいいのかがよく分かりません」
1人の理知的な少年が軽く手を上げながら疑問をぶつける。
「はえー話が、そのAsuraって製薬会社がブラック企業だから気をつけろってことだろ?大体こんな金にならねぇ場所に支所を造るてこと自体可笑しいだろ。"薬で人助け"つっても所詮金儲けのビジネスだってのに」
またも、言わんとしていることを汲み取ってくれたのは要だった。
「要の言う通りだ。Asuraには迂闊に関わらないこと。悪いが今はそれしか言えない」
まだAsuraの"裏"の顔"について明確な証拠を掴めていない斎は、申し訳なさそうな表情と共に、それ以上聞くことを許さないような表情でメンバー全員に言う。
「…まぁ、よくわかんないけど、斎がそんな顔して言うんだから、俺は気を付けるよ」
1人の少年が口を開く。
「そうだな。ついこないだ面倒なことがあったし、あんなの味わいたくないしトラブルは面倒だしなぁ〜」
「アンスズとパースの二の舞は勘弁…」
少年達は斎の言葉を理解してくれたようだった。
そんな光景を見て、如何に斎が皆の信頼を得ているのか、朱羅には感じ取ることが出来た。
「そういうことで!ちょっと難しいことかもしれないけど…Asuraには気を付けるように。単独行動はしない。何かあったら俺や要に速やかに報告すること。報告、連絡、相談、これ大事!いいな!」
「「わかった」」
少年達は素直に返事を返した。
「以上、解散!皆ゆっくり休めー」
斎が解散を宣言すると、集まっていた少年達が散らばって行った。
「朱羅もお疲れ」
「俺はただ、あったことを話しただけだ」
「それでも助かったよ。何かあってからでは遅いからな。説得力のない話しか俺には出来なかったけどさ…何も知らないよりかはマシだと思ったから」
斎は朱羅の元に歩み寄り、感謝の意を伝える。
「……皆の斎への信頼は厚いんだな」
朱羅は、もどかしさや悔しさを乗せた表情でそう語る斎から、部屋に戻って行く少年達の後ろ姿に視線を移しながら話題を変える。
「―ん?あー……まぁ、此処では皆で助け合って行かないと生きて行けないからな。それには上に立つ者が必要で、たまたまその役が俺だったってだけだよ」
斎は苦笑する。
「意外だな。お前が謙遜するなんて」
「何言ってんだよ。朱羅が俺をどう見てるのかわかんないけど、俺は多分、朱羅が思っているよりずっと小心者で自分に自信のない人間だよ。元々は」
「…"変わった"、と言うことか?」
「変わんないと生きて行けなかったからな。でも、自分が変わったなんて全然気付かなくってさ。必死に生きているうちになんか変わってたらしい」
斎は何処か遠くを見ながら寂しげな表情で答える。
「でも、此処までまとめるのも大変だったんだからな!スラムに来る人間は色々問題抱えてるもんだし」
「…そうだな」
2人でそんな話をしていると、柔らかで優しげな、少し甘みのある香りに気が付く。
「お、瑪瑙」
「2人で何のお話?」
後ろの方で朱羅と斎の話を聞いていた瑪瑙が2人の元にやって来た。
「ちょっとした立ち話!それより瑪瑙、大丈夫か?」
「…?何が?」
瑪瑙はきょとんと首を傾げる。
「いや、昼間、朱羅に瑪瑙が1人になりたいって言ってたって聞いたから…」
斎はちらっと朱羅を見る。
「あ……!うん、大丈夫…!」
瑪瑙は斎の視線の先にいる朱羅を見て、頬を少し桃色に染め、視線を朱羅から外しながら答える。
「………」
斎は、黙ったまま瑪瑙と朱羅を見る。
「……斎君……?」
急に黙り、自分や朱羅を見る斎に、瑪瑙はそっと声を掛ける。
「―あ、何?」
「…それはこちらの台詞なのだが…」
「私の顔に何かついてる?それとも朱羅君の方………には何もついてないね」
「あ…いや、何でもない何でもない!」
斎は片手をブンブンと横に振り、苦笑する。
「それよか、瑪瑙は特に気を付けなよ、Asuraには!」
「え…私?」
突然話を振られた自分を指差し、小首を傾げる仕草を見せる瑪瑙。
「そう!だって瑪瑙はほんとに可愛いから!可愛いと言うか美人?でも可愛いからどちもだな!」
「斎君、それは褒め過ぎだよ。でもありがとう。女の子はやっぱりお世辞でもそう言われると嬉しくなっちゃうんだよね」
にっこりと微笑む瑪瑙は、少し肩を竦めながら言う。
「お世辞じゃないって酷いなぁ」
「ふふ。嬉しいよ、斎君。ありがとう」
「なんだかなぁ!なぁ?朱羅。瑪瑙は可愛くて美人だよなぁ?」
今度は朱羅に話を振る斎。
「ああ。瑪瑙は美しく、強い女性だ」
「っ………」
表情を変えず、だが、瑪瑙の目をまっすぐ見つめてそう答える朱羅に、瑪瑙は思わず目を丸くし、黙ってしまう。
「………」
瑪瑙のその反応を、斎も黙って見つめていた。
「………って、斎君も朱羅君もそんなに見ないで…!」
カァーッと桃色の頬が朱色に染まった瑪瑙は、両手で自分の顔を覆い、2人に背を向けた状態で2人に抗議する。
「………?」
朱羅は瑪瑙のその反応にきょとんとした表情を見せる。
「……………やっぱそうか……」
突然、斎は何の脈絡もない言葉をぽつりと発する。
「…?斎君、"やっぱり"って何…?」
顔を覆っていた両手を外し、斎に問い掛ける瑪瑙。
「―あ、いや!独り言独り言!斎さんのおっきな独り言!」
自分でも気付かぬうちに呟いていたのか、斎は瑪瑙に問われ、少々慌てた素振りを見せたが、すぐにニカッと笑いながら答えた。
「うーん……。変な斎君」
斎の言っていることが全くわからない瑪瑙は、少々不服そうな表情を見せる。
「斎はいつもおかしい」
「はいそこぉ!!嘘言わなーい!斎さんはいつだってまともですから!」
朱羅を指差し、抗議する斎。
「ふふ」
そんな2人を見て、不服そうな表情を見せていた瑪瑙の表情は、いつもの彼女の暖かな微笑みに変わった。



*



「…アンタは、アイツ等みてーに俺達も消すのかよ……」
薄暗く湿った空気や黴臭い匂いが少々気になる閉鎖された空間。
そんな空間にいくつか置かれている蝋燭の灯が、唯一周囲の状況を知ることが出来る術だった。
相手を威嚇するかのうようで、実は恐怖の対象である相手に対し怯えている自分を叱咤する為か、男はゆらめく灯の先に座っている別の男に、怒気を含めた低い声で問い質す。
「君達自身はどうなんだい?」
予想とは異なる答えが返ってくる。
「どうって……。聞いてるのはこっちだ!…つーか!アンタにとって俺等は態の良い駒なんだろう…!」
先程とは別の男が少々震える声を響かせる。
「君達には私自身の"実力"も見せているからね。なんだかんだ言いつつも実力主義というルールを破らないところは感心しているよ」
ふふっと、口元に手を当てて男は笑う。
「…早く俺等を此処に呼んだ理由を話せ。瑠唯社長さんよぉ…?」
男達のリーダーと思しき男が目の前で笑う男 ― 瑠唯を睨みつけながら問う。
「全く。最近は会話を楽しむ者が少なくてつまらないね。まぁ…私も、君達とこんな臭くて狭いところには長居はしたくないからね。」
瑠唯はそう言うと、口元に置いていた手を下ろす。
「単刀直入に聞こう。君達BHは、斎君達のグループをどう思っている?」
「斎………?ああ、俺達が屈辱を味あわせられたあの目障りなガキ共か……」
「そりゃあ目障りに決まってんだろーが!ガキだからって甘く見てりゃあ図に乗りやがってあのガキ共…!」
奥にいた男が拳を握りしめながら怒号を飛ばす。
「…でも、俺等がどんなにアイツ等を殺りたいっつっても、俺等の飼い主様はそれを良しとはしねぇんだろ?」
皮肉を込めた言葉を瑠唯に投げる男。
「…いいや。彼等に手を出すことは咎めないさ」
「……は?」
「だから、君達のしたいようにすればいい。そう言っているんだよ」
「…一体どういう心境の変化だ……ああ?」
「…そうだね。始めのうちは朱羅への強い想いがあって彼に手を出すことは赦さなかったけれど………愛と憎しみは表裏一体…と言うのかな。こうも彼に拒絶されてしまうと、彼への愛情が憎しみに変わっていくようでね…。こんなにも私は彼を想っているのに、彼はそんな私を拒み、あろうことか私以外の大切なものを既に見つけてしまっているしね。…だから、もういいんだ。私もこの苦しみから解放されたい」
瑠唯は悲しみの笑みを浮かべながら男の問いに答える。
「だったら自分でケリつけりゃあいいだろが」
「私もそう考えたのだけれど……ふふ、惚れた弱みと言うのかな。情けない話だけれど、朱羅を自分の手で殺すなんてことが出来そうもないんだ。それに、君達にも面子というものがあるだろう?あんな子供達にやられっぱなしでもいいのかい?」
「チッ…!」
「君達だって朱羅を含めた彼等…斎君達のことを目障りだと思っているのだろう?…だから、こういうのはどうかな?君達が彼らを始末出来た暁には、私は君達の縄張りから手を引くよ」
「!」
「君達は彼らを始末する事が出来た上に、私という邪魔な存在からも解放される。…どうだい?いい提案だろう?」
「………利害の一致、ってことかよ…」
「そういうことになるね。君達は彼らを始末出来てメンツも護られ、この場所も再び自分達のモノにすることが出来る。私も、執着していた朱羅がいなくなって精神的に解放される」
「さっきからおかしなこと言うな!俺達にんな事言っておきながら、アンタは此処に支社を置くって話じゃねーか!」
「そ、そうだ!俺等から手を引くってんなら、あんなのを造るなんておかしいじゃねーか!」
「何か勘違いをしているみたいだけれど、"手を引く"と言うのは、私が君達のやり方に口や手を出さないということであって、此処から手を引くだなんて一言も話してはいないよ。私にも会社の代表者という責任があるし、ビジネスはビジネスだからね」
「…相変わらず厭らしい性格してんだな…テメェは…」
男は楽しげに語る瑠唯を睨みつける。
「それに…君達とはいいビジネスパートナーになれそうだと私は考えていてね。此処には放浪者も多いし、モルモット集めなんかの仕事も君達に是非お願いしたいと思っているんだよ。勿論、相応の報酬は約束する」
そう言うと、瑠唯はその場に立つ。
「……テメェが何を考えているのかは頭のわりぃ俺等にはわかんねぇが……あの目障りなガキ共を消せるのなら、その話、乗ってやってもいいぜ…」
リーダーの男が瑠唯の取引に乗る。
「よし。交渉成立、だね。」
瑠唯はにこりと笑ってそう言うと、男達に背を向け、ドアへと向かう。
「交渉内容は絶対に忘れるなよ!ガキ共を始末したらすぐに手を引いてもらうからな!」
「わかっている。ちゃんと始末出来たら大人しく私も手を引く。約束しよう」
それだけ答えると、瑠唯はその場を後にした。


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