+ ACT.19  誰かの役に立ちたくて ( 2/2 ) +
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「あ!いたー!!」

突然、遠くから声が響き渡ってきた。

「…!斎!皆…!」
「…やっと来たか…」

トウカと朱羅は声の主達を確認すると、胸を撫で下ろす。
「こらトウカ!1人で出歩くなって注意してただろうーが!」
トウカ捜索隊メンバーの1人がそう言うと、トウカの頭を小突く。
「いたっ!」
「ルーシェ、頭ごなしに叱りつけるな」
頭を小突かれ、痛みを訴えるトウカの傍にやって来た斎が、彼の頭を叩いた少年ルーシェを窘める。
「だってよ〜……」
不服そうに頬を膨らませ、黙るルーシェの脇で、斎は膝を折り、トウカの視線に合わせて続けた。
「なぁトウカ。どうして注意していたのに、1人でこんな所に来たんだ?」
斎は優しくトウカに問い掛ける。
「……皆の役に立ちたくて……」
「…役に立ちたくて?」
「……新しく出来る会社…て、僕も働けないかなって思って………」
「はぁ?お前みたいなガキがっ―」
「ルーシェ」
「うっ………」
トウカを再度叱りつけようとしたルーシェに、斎は言葉を飲み込ませる。
「働いて、お金を稼いで、そのお金で皆で美味しいもの食べたり…色々買ったり出来たら、きっと皆喜ぶと思って………」
自分のしでかしたことを反省しているトウカの瞳からは少しずつ涙が溢れ、今にも零れ落ちそうだった。
「ありがとう、トウカ。トウカが皆の為にそんなことを考えていてくれたこと、俺は誇りに思うし、素直に嬉しいよ」
「…い、……つきっ………」
笑顔で優しく頭を撫ででくる斎を、トウカは涙を零しながら見つめている。
「でもな、トウカ。まだ小さいお前が1人でいなくなるのは、凄く心配するし、辛い」
「っ―く………ご、めんなさっ………」
溢れ出る涙が止まらないトウカは、両手で目をごしごしと強く拭うが、斎がそれを止め、そのまま引き寄せ、優しく抱きしめた。
「その気持ちだけは本当に嬉しい。…でも、心配は掛けないで欲しいんだ…」
斎は優しく自分の胸で泣くトウカの頭を撫でる。
「うっ……ご、めんなさっ…………」
ぎゅうっと、斎の背中に回した手を握り締めるトウカ。
「それじゃあ………今度からはトウカにも大切なお仕事、任せようかな!」
「!おしごと!!」
パッと、トウカは深く埋めていた斎の胸元から顔を離し、涙で潤っている目が更にきらきらと輝く。
「少しずつにはなるけど、トウカにも今よりも難しくて大切なお仕事を任せるからな!」
「うん!僕、頑張る!」
「よしよし。やっぱり可愛いトウカには笑顔が1番だな!」
にこにこと嬉しそうに笑う斎は、トウカの頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「それと……」
斎はそこで言葉を止めると、距離を置き、黙って斎達を見ている朱羅に視線を向ける。
「朱羅もありがとな。トウカについててくれて」
「礼を言われることではない」
「んでもさ、すぐにトウカを呼び止めないで、でも見捨ず此処まで見守っててくれたんだろ?」
「え………朱羅、もしかしてトウカがホームを出る前から気付いてて止めなかったの…?」
1人の少年が眉を顰めながら問う。
「何で気付いてたのにすぐ止めなかったんだよ朱羅!」
ルーシェが声を荒げる。
「朱羅を責めるのは可笑しいよ2人とも。トウカだってこう見えて1人の男でプライドもある。すぐに止めていたら意地になって絶対やり遂げようとするだろうし、例え今回大人しく戻ったとしても、きっと同じことを繰り返していたと俺は思う」
「………だから朱羅は、トウカのプライドを傷付けず、でもトウカを護る為、敢えて止めずにここまでついてきた…と、そういうこと?」
眼鏡を掛けた少年が分かりやすく状況を説明してくれた。
「そういうことだろ?朱羅」
「……どうとってもらっても構わない」
「ったくー、素直じゃないなぁ!」
斎は困ったような笑みを見せる。
「……朱羅の方が俺達よりトウカをわかってたって……そういうことなのかよ……」
ルーシェは歯痒いような悔しいような表情を覗かせながら独り言のように呟く。
「きっとさ、お前達もトウカを心配するあまり気が動転してたんだと思う。俺も実はトウカを見付けた瞬間、怒鳴りつけそうになったしな」
ハハ!と、斎は苦笑する。
「ルーシェがトウカを実の弟のように可愛がっているのは俺もよく知ってる。だからこそ、冷静じゃいられなかったんだろ?」
「……………そう……かもしれない………」
ルーシェは斎に窘められ、素直に斎の言葉を受け入れる。
「…悪い、朱羅。アンタはトウカを護ってくれてたのに責めるようなこと言っちまって……」
「いや。俺は気にしていない」
朱羅はルーシェを真っ直ぐ見つめながら答える。
「それじゃあ…ホームに残ってる皆も心配してるから、早く戻ろう!」
斎はぽん、とトウカの頭に手を乗せると、その場に立ち上がり、皆に声を掛ける。



*



「あ!戻って来た!!」
斎やトウカ達が戻って来るや否や、ホームの外でトウカの帰りを待ちわびていた少年達の視線が一斉に同じ場所に向けられる
「トウカは?トウカは?!」
「焦るなって。ほら…」
直ぐに駆け寄ってきてトウカの身を案じる少年達に、斎はそっと自分の後ろにいたトウカを横に出す。
「み………皆、勝手に出歩いてごめんなさい…」
しゅん、と自分の行動を反省すると共に、皆の反応が気になっていたトウカは小声で謝罪する。
「「馬鹿トウカーーー!!」」
「むぐ!!」
一斉に何人かの少年がトウカを抱きしめた為、小さな彼はいとも簡単に少年達に飲み込まれてしまった。
「すっげー心配したんだからな!」
「後でしっかり叱りつけてやんだから!」
「馬鹿トウカ、ほんっとに馬鹿!!」
トウカを叱りながらも、少年達は皆嬉しそうで、ほっとしたような笑顔を見せている。
もみくちゃにされているトウカも、皆が自分をこんなに心配してくれていたことが素直に嬉しかったのか、いつもの笑顔を見せるようになっていた。
「お疲れ様、斎君、朱羅君」
そんな光景を少し距離を置いた所で眺めていた斎と朱羅の背後から、瑪瑙が労いの言葉を掛けてくる。
「朱羅君も探しに行ってくれてたんだね。ありがとう」
にっこり微笑む瑪瑙。
「相変わらずの浅い眠りに、今回だけは感謝だな」
そう言いながら朱羅の頭をポンポン撫でる斎だったが…
「…いちいち頭を撫でるな…」
朱羅はそう呟くと斎の手を払い、ホームの中に戻って行った。
「おーおー冷たいお姫様だこと!」
「ふふ。…あ、そうだ斎君、これ…」
不意に瑪瑙が手に持っていた小さめの紙袋を斎に手渡す。
「ん?何これ」
「わからないけど、ルカさんって言う銀髪の凄く綺麗な人が斎君に渡してって、さっき置いて行ったの」
「…瑠唯じゃなくてルカ?」
「うん。ルカさんって名乗ってたよ?兄が世話になってる、とも話してたけど…」
「…ってことは……あいつの妹さんってことか………」
瑠唯について調べていた斎は、瑠唯に妹の瑠架がいることを知っていた為、すんなり納得した。
「わかった。確かに受け取ったよ。ありがとな、瑪瑙」
「どういたしまして。それじゃあ皆お腹空かせてるし、ご飯にしようか」
「そうだな!ほっとして俺も腹減った減った!」
そう言う斎は、手に持っていたディスクをポケットの中に軽く差し込んだ。



*



トウカが戻って来たことで更に賑やかになった朝食が終わり、それぞれの仕事が始まると同時に斎は1人、自室に戻った。
ドアを閉め、3台のパソコンが並んでいるテーブルの前にある椅子に腰を掛け、ポケットから先程瑪瑙から手渡された紙袋を取り出す。
「……あの人絡みって時点で警戒はするけど………」
斎は紙袋を開け、中身を確認する。
「………ディスク?」
紙袋から出て来たのは、小型のディスクだった。
「………写真か映像か………そのあたりだろうな、きっと………」
逡巡する斎だったが、とりあえずディスクをパソコンに入れ、自作のウイルスソフトを使用し、ウイルススキャンを開始する。
5分程でスキャンが終了し、ディスプレイに『ウイルススキャン完了 ウイルス検知数:0』の文字が表示される。
「………男なら、飛び込んでみるか………」
様々な可能性を考えた斎だったが、中身を確認することに決めた。
アイコンをクリックし、ディスクの中身をディスプレイに表示させる。
「………何だこの映像………」
クリックすると動画の再生が開始される。
最初に現れたのは真っ白の映像。
だが、その白の空間が次の瞬間、真っ赤な色で染められていた。
「……血………?」
斎の表情がすぐに曇る。
目の前で再生を続ける映像の中には、真っ白な空間―恐らく真っ白な室内の壁に飛び散った大量の血。
真っ赤な絵の具を壁にぶちまけたかのように見えるその映像に、斎は始め、血糊かとも思ったが、カメラが更に下に移動すると小柄な少年と思われる人物が映し出された。
「………まさか、こいつがやった………のか?」
その少年は俯いていて顔がわからない。
だが、手には真っ赤になった刃渡りが長めのナイフを手にしっかりと持ち、佇んでいる。
斎が少年に釘付けになっているとカメラは少年から直ぐにパンする。
そしてそこには、悍ましい光景が広がっていた。
そこに映し出されたのは、何人もの人間の死体…
腹に深いナイフ跡が刻み込まれた死体や首から上がなくなっている死体、腕が切り落とされている死体と言った、惨たらしい肉塊と化した人間の死体が、周囲にいくつも映し出されていた。
惨劇が映し出されている場所の天井、壁、床、全てが真っ白で少年と死体以外何もなく、窓のひとつもない違和感を覚える場所だからこそ、更に狂気や恐怖を感じてしまう。
「っ………」
血の匂いや肉の匂いなど映像からは感じ取れない筈なのに、斎は軽い吐き気を覚える。
「なっ……んだよ、これっ………」
ただの"映像作品"と受け取っても可笑しくはない筈なのに、何故か斎には『作り物』とは思えなかった。
その答えは、その後の映像に映し出されていた。

「…………嘘………だろ………?」

斎の目が丸く見開かれる。
「可笑しい……だろ………」
そういう斎の視線の先に映し出されているのは、死体の中心に立っている、先程僅かに映った少年だった。
顔に影が落ち、よくわからなかったが、カメラが少しずつ近付いて行き、少年の顔がわかるようになった途端、斎の口は開いた状態になり、目も丸く見開かれ、数分の間、斎は身動き一つとることが出来なかった。
少年の顔には大量の返り血が浴びせられており、髪からも赤い滴がぷたりぽたりと止まずに落ち続けている。
そして、少年の顔のアップが映し出されると、斎はその少年の名を呼ぶ…


「朱………羅…………?」


映像に映し出されている血まみれの少年の名を呼ぶ斎の声は、震えていた。


+ ACT.19  誰かの役に立ちたくて +  Fin ...

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