+ ACT.20  彼女との再会 ( 1/2 ) +
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自分の過去を知る者はいても、実際に当時の自分と接触したことのある者とは出会ったことがなかった。
だからこそ、彼女との再会には驚き、それと同時に、否応なしに過去の記憶が思い起こされてしまった。






 ACT.20  彼女との再会






「………斎」
「―って、おわ!」
目が覚め、軽く朝の挨拶を交わした頃からずっと視線を浴び続けていた。
普段なら言いたいことはこちらの都合関係なく言葉にしてくる彼が、ただ黙ってこちらを見続けている。
騒がしく喋られることもボディタッチされることも良いとは思えないが、黙り続けたままこちらに視線だけを向け続けられる方が苦行だった。
そう思った朱羅は後ろを振り返り、こちらに視線を向け続けている斎に声を掛け、軽く歩み寄る。
「俺に用があるなら黙っていないで言ったらどうだ」
朱羅を見つめ続けていたはずなのに意識はどこか遠くに飛んでいたのか、はたまた意識が飛ぶほど深刻なことに意識を集中していたのか、朱羅が声を掛けると斎は声を上げ、後ろに飛び退いた。
やはりこちらを見てはいたが、同時に深刻なことを思案していたのだろう。
朱羅が自分の方に歩み寄ってくる光景は、斎の脳ではきちんと情報処理されていなかったようだ。
「っ……朱羅………」
斎は朱羅を見ると眉を顰め、無意識に目を逸らしてしまう。
「黙っていないで言いたい事があるなら言え」
「………朱羅さ、Asuraにいたってことは……朱羅も何かしら実験に関わっていたってことだろ……?」
そう尋ねてくる斎は、こちらを探るような瞳で朱羅を見ていた。
「…ああ」
「………どんな実験で、朱羅はどう関わってたんだ……?」
先程の複雑な表情から変わり、そう尋ねてくる斎の目は真剣で真っ直ぐで、朱羅の言葉を聞き逃すまいという姿勢がひしひしと感じられた。
「……斎の部屋で話がしたい」
朱羅もまた、そんな斎に応えるかのようにまっすぐ彼を見つめ、希望と伝える。
「…わかった。じゃあ…」

「瑪瑙!!」
「「!」」

斎が自室へ朱羅を招こうと声を掛けている最中、ホーム内で少年の声が響き渡る。
「どうした!」
すぐに声がした場所へ移動すると、斎は状況説明を求める。
「瑪瑙が…!」
斎が角を曲がって声の主を発見すると、そこには少年が1人、床に蹲ってゼイゼイ、ひゅーひゅーと呼吸が乱れている瑪瑙の背中に手を乗せ、助けを訴えていた。
「っ………」
呼吸が荒れ、声が出せない瑪瑙は蹲りながら眉を顰め、苦しそうに斎と、斎の後方にいる朱羅を見上げる。
「…!」
斎は瑪瑙の傍に駆け寄り、彼女の容態を確認すると、そっと抱きかかえ、瑪瑙の部屋へと急いだ。
「はい、瑪瑙。苦しいだろうけどこれ飲んで」
斎は瑪瑙をベッドの上に下ろすと、机の上に置いてある紙袋の中から薬を取り出し、朱羅が気を利かせて持ってきた水の入ったコップと共に瑪瑙に渡す。
「っ………」
瑪瑙は受け取った薬を口に含み、両手で持ったコップの水をそっと喉に流し、薬を飲み込む。
「前屈みになった方が楽…?」
「………」
斎の問い掛けに、瑪瑙はこくりと頷く。
その答えを確認すると、斎は瑪瑙の上体を少し前に倒し、片手で瑪瑙の身体を支え、もう片方の手で優しく背中を摩る。
「…取り敢えず今回は酷くないみたいで良かった……」
そう呟く斎の表情は、ほっと胸を撫で下ろしつつも、どこか不安が残るものだった。
「………何も聞かないんだな、朱羅は」
斎は瑪瑙の背中を摩りながら、後方で黙って立っている朱羅に声を掛ける。
「今はそのタイミングではないと思ったから」
「瑪瑙は、呼吸器官にちょっと障害があってさ…たまにこんな風に発作が起きちまうんだ」
斎が朱羅に説明していると、瑪瑙は困ったように笑いながら朱羅に視線を向けた。
「こんなとこだからさ…綺麗な空気なんて無理なんだよな………」
眉を顰め、どこにぶつければ良いのかわからない悔しさが込み上げてくる斎の手を、瑪瑙はそっと握り締め、首を左右に振る。
「……そうだな。もう、瑪瑙自身が決めたことだもんな」
斎が瑪瑙を見つめながらそう言うと、彼女はゆっくりと頷いた。
「………」
朱羅はそんな2人を黙って見ていた。

特に意識はしていなかったが、朱羅は新参者。
ここのことは勿論、斎や瑪瑙のこともよくは知らない。
そして、この2人がどんな時間を共に過ごしてきたのか………。
こんな場所だからこそ、その時間がこの2人の絆を強めてきたことは容易に理解出来る、朱羅の知らない時間だった。
「…俺は外に出てる」
「―あ、朱羅…!」
斎はドアノブに手を掛けた朱羅を呼び止める。
「悪いんだけどさ、何か飲み物と果物、買ってきて貰えるか?」
「…切らしているのか?」
食材や物資が限られているとは言え、しっかり者で情報通の斎が仕切っているこのホームの冷蔵庫や保管庫には、必要最低限のものではあるが、ほぼ常に常備されている飲食物。
それが"ない"と聞き、朱羅は思わず聞き返してしまった。
「昨日の夜、ミカエラ達が喉乾いたって飲み物殆ど飲んじまってさ…。果物は瑪瑙が好きだから。普段はなかなか買えないけど、こういう時には食べてもらいたいし」
「…わかった」
「財布は俺の部屋にあるの使ってくれていいから。頼むな」
斎の用事を受けると、朱羅はそのまま瑪瑙の部屋を後にした。

「………瑪瑙は大丈夫だ。斎も傍についている」
部屋を出ると、廊下の突き当たりで数人の少年達が朱羅をじぃっと見つめていた。
彼らが待っている答えを、朱羅はすぐに理解し、与えてやる。
「良かったぁぁぁぁ〜………」
胸を撫で下ろした少年達は、泣きそうな声で安堵感を体現する。
「最近発作起きてなかったからな……久々でどうなることかと思った………」
「でも、落ち着いたみたいだし、斎もついてるからきっと大丈夫だよ!」
「じゃあじゃあ、俺等で斎直伝の胃に優しいご飯、作ろうぜ!」
1人の少年がそう提案すると、同意した少年達はすぐにキッチンへと直行した。
「………切り替えが早いな」
少年達の後ろ姿を見つめながら、朱羅はぽつりと呟く。
そしてそのまま斎の部屋に入り、財布を手に取り、ホームを出た。



*



「―おい!」
長身で細めの体付きの男が目を丸くしながら前方を指差す。
「アイツ……朱羅って奴じゃねぇの?」
「ああん?何処だよ」
長身の男の横にいるガタイが良く、肌も黒味が強い男が眉を顰めながら目を細める。

男達がいる場所は、スラム街の中では賑やかで活気がある、此処ではセンター街と言われている場所から1本細い通りにある、薄汚れた半壊ビルの階段。
まだ昼前ではあるが次第に人の通りが増えている中、定位置であるその場所から日課の縄張りチェックを行っていた。

「ちゃんと見ろよ!目の前の道、歩いてんじゃんか!」
人差し指を伸ばし、何度も前方を指差しながら訴えるように言う長身の男。
「お前は視力だけは人並み以上だもんな」
先の2人とは別の、背が低く、小柄で眼鏡を付けた男が単調な口調で呟く。
「だ〜か〜らぁぁぁ!」
なかなか朱羅を見付けられない仲間達に地団駄を踏む長身の男は、声量を上げてそう口にしたが、すぐに口を平手で叩きつけられる。
パン!という甲高い音がその痛みを表しているかのように周囲に響く。
「うっさいんだよボケ。あのガキに勘付かれたらどーすんだ、ああ?」
思い切り口元を叩かれた長身の男は、今、自分を叩いた時の音の方がよっぽど五月蠅いとは思ったが、そんなことを言ったら何をされるかわかりきっていた為、軽く腫れた口元を摩りながら黙っていた。
「遠くてちっさいけど……あれだろ?瑠唯のお気に入りだった……なんつったっけか」
「御堂朱羅。元々はいいとこのお坊ちゃんだったって話」
眼鏡の男が目を細め、前方に小さく見えている朱羅を見つめながら答える。
「そういやぁ………前にあのガキ共を襲撃した時、1番厄介だったのがアイツって話だったよなぁ?」
ガタイのいい男は、目を細め、口元を三日月に歪めながら意味有り気に切り出す。
「あの瑠唯も目をかけてたってことは、そういう理由もあったのかもしれないな」
「…じゃあ、今がチャンスってことじゃねーの?」
眼鏡の男が口を開いた後、少し腫れの引いた長身の男が続ける。
「―見る限り、彼は今、1人みたいだしね」
眼鏡の男の言うように、朱羅は先程からずっと1人で買い物をしていた。
「…インテリ野郎にも許可は頂いていますし?面倒な奴は最初に片付けておくにこしたこたぁないもんなぁ…?」
不敵な笑みを浮かべながらガタイのいい男はそう言うと、拳を握り、関節を鳴らし、首も回して身体を暖め始めた。
「BHの名も、廃れたままじゃぁやってらんねぇしな!」
長身の男もまた、首を鳴らし、両手をぶらぶらと動かし、身体を慣らす。
「―ってちょっと待て!」
「「ああ?」」
やる気満々でウォーミングアップを始めていた2人の男だったが、突然、眼鏡の男がそんな2人を制止する。
「んだよいきなり…」
「…アイツ、何処に行った…?」
眼鏡の男はブリッジを指で押し上げ、眉を顰めながら先程まで確かに前方にいた少年を探す。
「人ごみにでも紛れたんじゃねーの?」
「アイツ、チビだしな」
何が愉快なのかわからないが、2人の男はゲラゲラと笑いながら軽く受け流した。

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