+ ACT.22  男の意地 ( 1/2 ) +
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「重役出勤ってヤツか?あ?」
ギルヴァは手に持った銃を、再び肩にトントンと軽く当てながら、脇の廊下に立つ朱羅の方向へと体を向けていた。






 ACT.22  男の意地






「こんな、子供達しかいない場所を襲撃して何の得になる」
朱羅は表情を変えず、こちらを見下す目と、三日月に歪めた口を見せる男に問う。
「餓鬼には"教育"ってのが必要だろ?俺等がわざわざこうやって足を運んで、お前らに処世術を教えてやってんだ。感謝して欲しいねぇ」
ギルヴァがそう言うと、周囲の男達は軽く笑い声を上げる。
「その言葉、お前達のような教養のない人間から発せられる言葉とは到底思えないな」
「……はぁ〜…。此処の連中は揃いも揃って可愛くねぇ餓鬼ばっかだなぁ!」

―ガウン…!

突然、ホーム内に銃声が鳴り響く。
それは、ギルヴァが目を見開き、前方にいる朱羅に向け、発砲した音。
「朱羅!!」
斎は銃声を聞き、ギルヴァが朱羅に発砲したことを理解すると、朱羅の名を叫ぶ。
「そんな素振りを見せずにいきなり撃たれたら、流石の朱羅君も―」
ギルヴァが余裕の笑みを浮かべ、銃を肩口に移動させる動作を始めた瞬間―

ガン!という音と共に、ギルヴァの手に握られていた銃が宙を舞い、鈍い金属音と共に床に落ちた

「なっ……!」
ギルヴァは一体何が起きたのか、理解が出来ず、言葉も出てこなかった。
ただ、銃が自分の手から離れた時、自分の下方から蹴り上げられた脚は、一瞬ではあったが目視出来た。
そこから何が起きたのかを予測するのは難しいことではない。
「…お前……あの一瞬で俺のとこまで距離を詰め、銃を蹴り上げたっつーのかよ……」
ギルヴァは銃が床に落ちた衝撃で、銃が自分の後方に滑って行き、少年の足に当たった事を確認すると、ゆっくりと背後に視線を向ける。
「ちょ、おま…!!」
ギルヴァの斜め後方にいた男が思わず軽く飛び退いた。
何故なら、そこにいたのは、ついさっきまで自分達の前方に確かに立っていた少年だったからだ。
おまけにその少年は、自分の足で止めたギルヴァの銃を手に持ち、こちらに銃口を向けていた。
「…どうやら俺が思っていたよりはやるみてぇだな」
ギルヴァは目を細めながら不敵な笑みを深くする。
「お前達が出て行くなら、俺は危害を加えない」
「たかが銃を一丁奪っただけで調子にのんな!!」
ギルヴァの前方―朱羅に1番近い場所に立っていた男は、叫ぶと同時に朱羅に殴りかかってくる―
―が、朱羅は自分よりも体格の良いその男の隙をつき、男の下方に入り込むと間髪入れずに、持っていた銃のグリップ部分で男の顎を一打する。
その衝撃で男が怯むと同時に上半身の力が緩み、脱力した上半身を支える負荷が膝へと集中した次の瞬間、その部分には朱羅の鋭い足蹴りが喰らわされていた。
「ぐぁっ…!!」
体勢を立て直そうと本能的に増した脚への力の伝達経路は朱羅に受けた一撃で遮断され、行き場のなくなったその力は一瞬にして消え、男はその場に崩れるように堕ちてしまった。
男の膝から発せられた鈍い音と、男の身体が床に崩れ落ちた時の衝撃音、そして男の低い呻き声がホーム内に響き渡る。
「ぐっ……あぁぁ………!」
床に崩れ落ちた男は膝を抱え、痛みに悶えている。
「…テメェ………」
ギルヴァはそんな仲間を見下すと、悶え苦しむその男の先に立つ朱羅を睨みつける。
「膝を痛めただけだ。死にはしない」
大柄の身体を支える為、全身を巡る力は平均的な体格の人間よりも当然多い。故に、何の前準備も出来ていないうちに一気にその力が膝へと集中し、更にはその部分に鋭い衝撃を与えられれば、膝が悲鳴を上げ、暫くは使い物にならなくなることは容易に予測がつく。
「っざけやがってクソガキイイイ!!」
いとも簡単に倒された仲間が苦しむ姿と、表情をぴくりとも変えず、淡々としている目の前の"クソガキ"への怒りが頂点に達したのか、ギルヴァ以外の男達は一斉に朱羅へと襲い掛かる。

―そして、そまま返り討ちにされてしまった

「………」
ついさっきまで自分の周りに立っていた仲間達が、今では床に落ち、頭や足、腕への痛みに苦しみもがいている姿を目の当たりにするギルヴァ。
朱羅は手に持っている銃を1度も発砲せず、5人の男達をいとも簡単にあしらってしまったのだ。
「テメェ………」
ギリ…と、ギルヴァは歯軋りをし、拳を強く握る。
目の前にいる、"異質な存在"への恐怖心を掻き消すために。

少年はただ、そこに在るだけ。
殺気なんてものは一切なく 本当に ただそこに立っているだけ。
目の前に佇む少年は何も言葉を発することなく、銃口をこちらに向けることもなくこちらを真っ直ぐ見つめている。
瞬きひとつせずに。

完全な虚無

彼から殺気は勿論、怒りや憎しみ、悲しみや苦しみ、そんなものは一切感じられない。
それなのに何故、少年は自分達を迎え撃つのか。
この状況から考えれば、仲間を護るのだという想いによる行動だろう。

―だが、果たして本当にそれだけのだろうか…?―

ギルヴァには疑問が残る。
しっくりこないのだ。
仲間を護りたいという人間が、こんなにも静寂な空気を纏、冷静に、瞬きひとつもせずこちらを狙い続けるものだろうか…。

そして、ギルヴァは仮説を立てる。

彼を今突き動かして来ているのは、純粋なまでの"本能"なのではないのだろうか。
難しい意味を持たせようと無意識に考えていたが、答えは単純なものなのではないだろうか。
野生の獣が生きる為に獲物を狩るのと同様に、その行為自体に快楽や優越感を感じる訳でもなく、金や名誉を求めるものではないのと同じように、この少年は"ただ単純に"狩りをしているだけなのではないのだろうか…?
だからこそ、その行為に目的や意味を持たせる人間とは異なる彼から異様な何かを感じ取っているのだろうか…

だが、その"単純で純粋な本能"からくるものであるからこそ、ギルヴァはそこに深い闇を感じていた。
本能であるとすれば、相手はその本能で動く獣である以上、理性が働かないのではないだろうか…
こうやって黙って立っているように見えているが、実際は如何に自分を仕留めようかと考えているのではないだろうか…
根拠もなく、自分自身の中でも整理がついていない憶測がギルヴァの中を駆け巡る。

脳から全身へのへの伝達経路が遮断されたかのように身体を動かせない中、必死に思考するギルヴァはハッとした。

仲間が恐れた、この少年の、静寂に包みこまれ、波ひとつ立っていないというのに、ほんの僅かでも力を抜けば一瞬で飲み込まれてしまいそうなまでに強く深い闇………
ギルヴァは身を以て仲間の言っていた言葉を、身を以て理解したのだと。

「…お願いです。今すぐ彼等と共に、此処を立ち去って下さい」
"お願いです"と口にはしているが、そう言葉を発する目の前の少年からは有無を言わせぬ威圧感が感じられた。
そしてギルヴァは、少年が口にしているこの"お願い"は、"自分達を殺さないでください"という意味ではなく、"仲間達の目の前で、自分に貴方達を殺させないで下さい"という意味での"お願い"なのだと直感した。
「………今回は、そうしてやる」
ギルヴァは、朱羅が自分達に敵意を抱きつつも、その感情が殺意までに至っていないことに心から安堵し、何とか立てる仲間と共に床に倒れている男達を抱え、ホームを後にした。

「すっげーーーーー!!」
一瞬、ホーム内を静寂が包み込んだが、すぐにそれは消え、少年達の歓喜の声が響き渡る。
「―っ…!」
バリケードを飛び越え、満面の笑みで駆け寄ってきた少年達が朱羅に飛び付く。
「朱羅、すげーすげーすげー!!」
「たった1人であいつ等を追っ払うなんてほんとに凄いよ朱羅!!」
少年達のキラキラと輝いた視線が痛い程に眩しく、朱羅は目をぱちくりとさせる。
「―朱羅。本当にありがとな」
遅れて歩み寄ってきた斎が礼を言う。
「…で、朱羅に飛びつくのもいいが、あいつらが壊したドアや窓の簡易補強作業と地下室にいる瑪瑙達への出迎えが先だ!」
「「―!了解!」」
斎の声にハッとした少年達は手際良くグループに分かれ、それぞれの役割に就く。
「………朱羅、」
「……わかっている」
朱羅は走り去って行く少年達を見つめながら、斎の言わんとしていることを理解し、返答する。
「先に言っておくが、俺の話を聞き、斎が俺を危険人物と判断したら、俺に遠慮なんてするな」
「お前に"此処を出て行け"って言ってもいいってことか?」
「此処のリーダーはお前だ。だから俺は、お前が決めたことを尊重する」
「…お前のことだ。此処にいたいと決めた時からずっと覚悟してたんだろ」
「ああ」
「お前の言う通り、最終判断を下すのは俺だけど、此処は皆の場所であって俺だけの場所じゃない。皆の意見も勿論尊重するからな」
「…わかった」
「決まりだな。…でも、今夜はとんだハプニングも起きたし夜も遅い。何より皆のメンタルケアも少しだけでもしないと駄目だから、話を聞くのは明日以降だな」
「わかってる。お前が話を聞く準備が整ってからで問題ない」
「…なぁ、朱羅、お前さ………」
「…なんだ?」
朱羅は質問の途中で言葉を濁すように打ち切った斎を見上げる。
「………いや、何でもない」
「…そうか」
それだけ会話をすると、斎は瑪瑙達の元へ、朱羅はホーム内の見回り及び簡易補強作業へと向かった。

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