+ ACT.23  告白 ( 2/2 ) +
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「…で、それと朱羅の眠気と、どう繋がるんだ?」
「俺は純血種と違い、人間とキリスの混血種。だから、"人間"としての俺と"キリス種族"としての俺が存在するんだ」
「それじゃあ………BHの連中の時にいたのは、キリスの朱羅ってことか?」
「―否、あの時俺の意識は確かにあった。…だが、自分でも感じていたが、普段の俺ではなかった。恐らく、キリスとしての俺が表に出てくる1歩手前…くらいだったんだと思う」
「2人の朱羅……ってことは、単純に言えば二重人格…みたいなものか?2人の朱羅がひとつの身体を共有してる………―あ………」
斎は会話の途中でハッとする。
「…ああ。それが原因で身体に負荷が掛かり、その負荷を消化しようと脳が俺を眠らせようとしているんだ」
「でもさ、それなら素直に寝て、身体を休めた方がいいんじゃねーの?」
顎に手を当て、斎は疑問を投げかける。
「…そうした方がいいのかもしれないが………」
朱羅はそこで一旦言葉を区切ると、自分の手を握り締めては放し、握り締めては放し…という動作をする。
「…朱羅?」
「……眠ってしまうと、自分が自分でなくなる気がするんだ。"もう1人の俺"に、身体を乗っ取られるような気がして………」
「…怖い?」
斎は真っ直ぐ朱羅を見つめ、問う。
「……ああ、怖い………という感覚に1番近いと思う」
朱羅は自分の腕を握り、身体を小さくする。
「………過去にも、意識が戻った時、人が目の前で死んでいたことがあった」
今まで落としていた視線を上げ、朱羅は斎を真っ直ぐ見る。
「キリス種族としての朱羅が、殺したってことか…?」
「…そうだと思ってる。だから、俺は此処にいてはいけない存在なのだとは……思ってる………」
自分の腕を掴む手に力が入る。
「―でも?」
「…?」
「朱羅は、どうしたいんだ?」
そう尋ねる斎の目は、一切曇っていなかった。
誰の迷惑も考えず、他の誰でもない朱羅自身の本当の気持ちを知りたいのだと、斎は言っているのだ。
「………叶うのなら………俺は此処にいたい。斎や瑪瑙………皆と共にいたい」
朱羅もまた、素直に、真っ直ぐに、自分の願いを斎に伝える。
「…朱羅さ、変わったよ」
「……変わった…?」
朱羅は斎の突拍子のない言葉に目を丸くする。
「ああ。此処に来た頃のお前とは別人だ。あの頃のお前だったら、俺は迷わずお前に此処を出て行けって言ってただろうな」
「そう………なのか…?」
「ああ。俺、正直お前の第一印象は良くなかったしな。美人だとは思ったけど、何考えてるのか全然わかんなかったし、危険な匂いもした」
「…だったら放っておけば良かったものを…」
「俺の直感がさ、朱羅を放っておくなって言ったんだ。でも、その直感を信じて良かった。本当の朱羅はこんなに素直で可愛いくて強くて真っ直ぐな奴だってこと、きっと俺は感じ取ってたんだ。だから、あの時お前を助けて良かった」
「……可愛いは余計だ」
「何でだよ。あ、美人の方が嬉しいか?」
「………」
朱羅は無言で斎をじっとり見つめる。
「…まぁ、とは言ったものの、俺は此処の皆を護る責任がある以上、戦闘種族の血を引くお前への監視は怠らない。今までは俺達の味方の朱羅でいてくれたけど、いつお前が俺達に牙を剥くかわからないからな。だから、俺が本当に危険だと判断すれば、お前を此処から追い出す。それでもいいのなら、朱羅は此処にいてくれ」
「はっきりそう言ってくれて助かる」
朱羅は斎の言葉に安堵したのか、柔らかい口調で答える。
「俺個人としてはお前のこと好きだし、此処にいて欲しいと思ってる。でも、それとこれは別の話だからな」
「ああ、わかってる。俺も此処の皆が大切だ。だから、もし俺が皆の脅威となることがあれば、俺は迷わず此処を出て行くし…―」
朱羅の瞳に、光が灯る。


「万が一の時には、俺を殺してほしい」


「………」
斎は朱羅の覚悟を目にし、言葉を紡げなかった。
朱羅のことだから覚悟をしているだろうとは予測はしていたが、実際に本人からその覚悟を見せつけられると、予想以上に複雑な心境だったのだ。

「勿論、俺も俺自身を見失わないよう努力はする。……だが、それでも俺が自我を保てなくなり、お前達に危害を加えるようなことがあれば、迷わず俺を殺せ」
「………わかった。でもさ、俺等より強い朱羅を殺せるかねぇ」
斎は空気を変えようとしたのか、明るい口調で問う。
「頭を狙えば一発だ」
「それが出来れば苦労しねぇっての!あん時の朱羅、恐ろしくて俺、動けなかったんだぜ?」
斎は肩を竦める。
「頭が狙えないのなら、脚をやれば取り敢えずは行動不能にはなる。腕は、痛みはあれど行動不能にはなりにくいから勧めない」
「…お前な、自分の殺し方を、さも当然のことのように、他人事のように淡々と語るな」
「……済まない。可能な限り、俺は俺でいられなくなりそうだったら、自分でケリはつける」
「………」
「いくら"化け物"になった俺でも、斎や他の誰かに命を奪わせる重荷は、負わせたくはないから………」
「…そんな風に言うな…」
「…え…?」
斎は視線を下げ、低い声で呟くように言葉を発し、朱羅は聞き取れなかったのか、聞き返した。
「自分を"化け物"なんて言うな」
「―っ……」

―時々、斎の強い眼光には驚かされる。
有無を言わせない、圧迫感さえ感じるほどの強い眼差し………

「お前は、朱羅は、"化け物"なんかじゃない」
「―っ……」
斎はそう言うと朱羅の手を掴み、自分の方に引き寄せる。
「例えお前が忌み嫌われた種族の血を継ぐ者だとしても、その種族が表に出てくるような厄介な体質だとしても、俺は今、俺の目の前にいる朱羅のことが好きだし、尊敬してるし、何より信じてる」
朱羅の手を自分の胸に当て、斎は朱羅の目を覗く事の出来る至近距離で朱羅を真っ直ぐ見つめ、語る。
「…斎………」
朱羅は斎に答えるかのように目を逸らさず、自分を見つめてくる斎を真っ直ぐ見つめ返す。
「………」
「………」
「……………」
「……………」
暫くの沈黙の後、斎が口を開いた―
「―なぁ……朱羅」
「…?何だ?」


「このままキスしてもい―」


最後まで言葉を発することなく、斎はその場に昏倒した。


+ ACT.23  告白 +  Fin ...

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