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彼と出逢ってから私は

彼以外の人間と性行為を行っても 何も感じなくなっていしまった

敢えて述べるのなら、そこにあるのは虚しさと虚無感のみだった






 ACT.24  特別な存在






「………もう下がっていい…」
男の低い声が、ベッド脇に置かれた、細やかな装飾が施されたスタンドライトのみから灯された暗く静かな室内に響く。
「……え……ですが……」
10代後半の少女が全裸のままベッドの上で上体を起こし、ベッドから、自分から離れてそう言う男に何か言いたげな様子だった。
「…いいから、下がりなさい」
「でも私っ……社長のことがっ……」
少女は気が付けば、全裸のままベッドを降り、男の下に駆け寄っていた。

「君では駄目なんだよ」
「―っ……」

少女の脚が一瞬にして止まってしまう。
男が少女に向けた凍てつき、殺気さえも感じてしまうような鋭く重い視線が、少女の身体を凍りつけてしまった。
「……私の気が変わらないうちに此処を出て行くんだ。そうでないと私は、君を殺してしまうよ?」
光のない男の瞳が、低く呻く様な男の声が、有無を言わせはしなかった。
「っ………」
少女は周囲に落ちていた簡易着を乱暴に掴み取ると、そのまま何も言わず、部屋を出て行ってしまった。
「………」
男はそんな少女を一瞥もせず、近くにある椅子に腰を下ろす。

「これで13人目…でしょうか、兄さん」
透き通るような美しい声が室内に響く。

「……相変わらず神出鬼没だね、瑠架」
男―瑠唯は椅子の肘掛に頬杖を突きながら、いつの間にか室内に入ってきた妹―瑠架に声を掛ける。
「一度最高の味を覚えてしまうと、それ以外はもう口に合わないのが兄さんですからね」
コツコツとヒール音を響かせながら、瑠架は瑠唯に歩み寄る。
「彼をそんな風に言うのは感心しないよ、瑠架?」
「兄さんの中には今も尚、色濃く朱羅が残っているのですね」
瑠架は椅子に腰掛ける兄の上に乗るように座面の脇に膝を突き、両手を彼の両肩に乗せる。
そして瑠唯もまた、そんな彼女の細い腰に手を回し、自分の方に引き寄せる。
「…愛と憎しみは、紙一重だからね…」
そう呟くと、瑠唯は瑠架に口付ける。
そのまま何度も何度も互いに深い口付けを交わし、瑠架は口付けを交わしながら、自分のボディスーツのファスナーに手を掛け、下腹部辺りまで下げ、服を肩から落とし、上半身を露にさせる。
「―っ………んっ………」
瑠唯は、下着を身に着けていない彼女の乳房に手を添えると、揉み下すようにゆっくりと手を動かす。そしてゆっくりと唇を解放すると、今度は首筋にキスを落とし始める。
「はぁ……………今夜は、普段より性急ですね、兄さん……」
瑠架は瑠唯の望むままに行為を受け入れ、頬を僅かに、生理的に朱色に染めながら目を細め、自分を求める兄を見下ろす。
首筋から胸元へと口付けを続けていた瑠唯だったが、不意に止めてしまう。
「……駄目だな……」
それだけ呟くと、瑠唯は下ろされている瑠架の服を上げ、肩に掛ける。
「残念ながら、今回私は朱羅と軽くでも交わしてきた訳ではありませんからね」
掛けられた服を少し直し、瑠架は表情を一切変えないままファスナーを閉め、瑠唯から少し離れる。
「朱羅は確かに、とても魅力的な存在です」
「…瑠架には、今の私は滑稽に映っているのだろう?」
瑠唯は再び肘掛に頬杖を突きながら、目の前に立つ瑠架に静かに問う。
「珍しいですね。兄さんが他者の意見を聞くだなんて」
瑠架は軽く腕を組み、率直な感想を述べる。
「たった1人の人間を、この私が手に入れられないだなんてね…」
ふっと、瑠唯は自嘲的な笑みを浮かべる。
「手に入れられないものだからこそ、ここまで兄さんは御執心なのでしょう?」
「朱羅が私のものにならないのなら、いっそ壊れてしまえばいいとさえ思っている程にね…」
自嘲的な笑みを浮かべながらそう語る瑠唯の目には、闇が差し込んでいた。
「…そうだ。ところで彼の様子はどうかな?」
瑠唯は不意に話題と表情を変え、瑠架を見る。
「彼………―ああ、BHのモルモットのことですか?」
「ああ。あの薬は少々癖があるからね。彼のような平凡な人間の身体にどれだけ順応するのか…」
「でも、行く行くはそういう"平凡な人間"のリミッターを外し、且つ理性的に制御の利くような物を作ることが目的なのでしょう?」
「スポンサーがいる限り、我々もある程度は彼等に応えなければならないからね」
瑠唯はくすりと微笑む。
「…それにしても、朱羅は一体どう思うのでしょうね。自分が実験台になって開発されていた薬で、人間が"化物"になってしまうだなんて知ったら」
瑠唯のその言葉を聞くと、瑠唯は苦笑しながら軽く嘆息する。
「瑠架。"化物"ではないと言っているだろう?私が作りたいものは、スポンサー達を満足させることの出来る"結果"だよ」
「だから彼等は、"化物"ではなく"商品"だと?」
「ふふ。瑠架にとってはどちらも"モノ"扱いしている時点で変わりがないように感じられるだろうね」
「さぁ、どうでしょう。その辺りには興味はありませんから」
瑠唯の美しい銀糸が僅かに揺れる。
「瑠唯はそのままでいいよ。君はいつだって君の意思で考え、動くことを唯一私から許されている存在だからね」
「優遇して頂いていることには感謝しています。ですが、朱羅は違うのですね」
「………」
瑠唯は口を閉ざし、瑠唯を真っ直ぐ見る。
「朱羅は兄さんに特別視されている私と同じ存在だけれど、彼には私と同じ"自由"はありません」
瑠架は兄を真っ直ぐ見つめ、続ける。
「それは何故か。―兄さんは、朱羅の全てを欲している。彼の身体は勿論、何よりも彼の心を欲している。それ故、彼を自由にはしたくない、常に自分の傍に置いておきたいと、そう願っている」
「……そんな私は、哀れな人間に見えるかい?」
そう問う瑠唯の表情には、自らを哀れむような感情が僅かに滲み出ているように感じられた。

「そうですね。今の兄さんは哀れです」
瑠架は椅子に腰を下ろしている兄を見下ろしながら、迷うことなく率直に答える。

「ふふ。それでこそ我が妹だ。まぁ、私にそんな事を言えるのは、瑠架と朱羅くらいだけれどね」
にこりと瑠唯は笑みを浮かべる。
「ああ………昔は、瑠架と私は"同じ"だと思っていたのだけれどね」
「元々、私達は異なる存在だったと私は思います」
「そうだね。今思えば私達は両極端な性質を生まれ持っていたのだろうね。私は常に力を、権力を、地位を求めていたのだから」
「でもそれは、兄さんが唯一の血縁者である私を護ろうと考え、行動した結果であり、兄さんの根底にあるものではないかと」
「そういう優しさは、今も未だ見せてくれるんだね、瑠架」
優しい笑みを見せ、瑠唯は言う。
「―そうか……そうだね…。私は、朱羅が初めて自らが欲し、求めた唯一の存在だと思い込んでいたが、そうではなかったようだ」
「正しく言えば、"兄さんが求めても手に入らないままでいる唯一の存在"、ではないでしょうか」
「…ふふ。確かにそうだね」
瑠唯は瑠架の言葉に納得がいったようだった。
「だからこそ朱羅は"特別"で、彼と共に過ごしたプライベートルームでは、行為を行わないのでしょう?」
瑠唯は今、自分達がいる部屋を見渡し、問う。
「……意識はしていなかったのだけれどね。無意識に、あの部屋に瑠架と朱羅以外の人間を招く気にはなれないようだ」
「兄さんは、執念深い人ですから」
「瑠架の言う通りだ。そういう部分で、私と瑠架は真逆の性質なのだね」
瑠架を真っ直ぐに見つめ、目を細め、語る瑠唯。
「その方が興味深いと思います。全てが同じでは面白くはありません」
「その言葉、瑠架の口から聞くのは珍しい言葉ではないかな?」
「私も、好奇心や探究心は持ち合わせているつもりですが」
「……だからこそ、瑠架も朱羅を気に掛けているのかな?」
瑠唯の視線が、僅かにその色を変えたように感じる。
「そうですね。彼のことは私も気に入っていますから。戻ってくることがあれば、また可愛がりたいと思っています」
「瑠架も珍しく、朱羅とは交わったからね」
「彼には、人間を惑わす魔性的性質が備わっていると思います」
「…そうだね。私達はそれに魅了されてしまったようだ。特に私はね…」
瑠唯はそう呟くと、瑠架に手を差し伸べる。
そして瑠架はその手を取り、兄の膝の上に腰掛ける。
「朱羅は自分の魅力や魔性に無自覚だからこそそそるのだと思います。だからこそ、もっと可愛がりたくなりますし、もっと色んな朱羅を見たくなる」
瑠唯の首に腕を回し、彼の肩口に頬を乗せ、語る瑠架。
「あまり彼の話をすると…私も我慢できなくなってしまいそうになるじゃないか……」
瑠唯は妖艶に囁きながら妹の頬に指を添え、つつ…と唇まで静かに伝わせる。
「―それなら、今すぐに私が朱羅を攫って来ましょうか?私も、朱羅が欲しくなってきましたから…」
兄の首筋にキスをし、舌を這わせる瑠架は妖艶な声色で煽るように語る。
「そうしたいのはやまやまだけれどね……。まだ彼はそっとしておこうと思う」
瑠唯はそう答えながら瑠架のファスナーを下ろし、肌に触れる。
「だったら…朱羅につけていた香水をつけ、私が朱羅の代わりになりましょうか?」
瑠唯の唇に濃厚な口付けをすると、銀糸を舐め取った瑠架は、彼の手を自ら自分の乳房に触れさせる。
「ああ…それと、朱羅との行為を録画していた映像を流しながらしますか?それだけでも、少なくとも兄さんの中に蓄積された性欲は処理出来ると思いますが…?」
自分の乳房を揉み下す瑠唯の額にバードキスを落としながら、瑠架は服の上から彼の性器に触れる。
「…相変わらず………煽るのも、感じさせるのも上手いな………」
瑠唯は瑠架の乳房にキスをしながら彼女の好きにさせる。
「朱羅の反応は、もっと初心で愛らしかったのですが…」
「…瑠架も、私に朱羅を重ねているのかい?」
自ら椅子の上で膝立ちをし、服を下まで脱がせるよう促した瑠架は、自分に問う兄に僅かに微笑む。
「…朱羅は、どんなに抱いても染まらなかったからね…」
そう呟きながら、瑠唯は彼女の望みに答えるように彼女の服を膝まで下げると、瑠架はそのまま器用に足を使って服を完全に脱ぎ、床に放る。
そして、全裸となった瑠架は、再び瑠唯の首に両腕を回し、身体を密着させる。
「私に選ばれて呼ばれた者達は皆、私に媚び諂うような行為をしてくるか、恐怖で身を竦めているかのどちらかでしかなかった。……でも、朱羅はそんな愚者とは違った。あの子は、どんな時にも自尊心を捨てはしなかった」
「兄さんの誘いを断ったのも、あの子が初めてですからね」
瑠架はくすりと微笑む。
「まさかこの私が拒まれるとは思ってもいなかったからね」
瑠唯もまた、彼女の笑みに促されるようにくすりと笑う。
「―だからこそ、愛おしいのでしょう?あの子は…」
瑠唯の目を真っ直ぐ見つめ、一瞬目を細めると、瑠架はそのまま彼の唇を塞いだ。

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