+ ACT.26  日増しに募る想い ( 2/2 ) +
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*

「朱羅!」
「朱羅君…!」

その後、ホームに戻ると外で自分を探していたと思われる斎と瑪瑙の姿があった。
「身体、大丈夫…?!」
瑪瑙は今にも泣きそうな、でもぐっと堪えるような表情で朱羅に駆け寄って来た。
「…済まない、心配掛けた。でももう大丈夫だ」
朱羅は自分の腕を掴み、顔を近付け、朱羅の体調を心配している瑪瑙に答える。
「ったく、心配すんだろーが!」
少々強めに朱羅の頭に手を乗せる斎は、呆れたようにそう言った。
「…済まない。……あ、」
朱羅は斎にもそう謝罪すると、何かを思い出したようだった。
「どうかしたの、朱羅君…?」
「……なんでもない。中に戻る」
心配する瑪瑙を他所に、それだけ答えると朱羅は足早にホームの中へと戻っていった。
「なんだぁ、アイツ」
「………」
後頭部に手を当て、更に呆れたように不思議そうにそう言う斎。
そして瑪瑙は無言のまま、朱羅を見つめていた。



「あれー朱羅ー。さっき洗濯物干してたのにまた干してんのー?」
1人の幼い少年が、先程まで朱羅が穿いていたズボンを洗濯している姿を見て、尋ねていた。
「…少し汚れてしまったから…」
朱羅は表情を変えはしなかったが、少々低めの声量で少年に答えた。
「あ、瑪瑙!」
少年は後ろからやってきた瑪瑙に気が付くと、正面から瑪瑙に飛びついた。
その少年の頭を撫でると、その場にしゃがみ「斎君が呼んでたよ」と瑪瑙が伝えると、少年は手を高く上げ「わかったー!」と叫び、走って中に戻って行った。
「どうかしたのか?」
洗濯を終えた朱羅は、こちらに向き直す瑪瑙に問う。
「"どうかしたのか?"と言われちゃうと"どうもしないよ"って答えるしかないかなぁ…」
「…?」
「………何となく、朱羅君の傍にいたいなと思って………。駄目…かな……?」
瑪瑙は少々不安げに朱羅を見た。
「いや、駄目ではないが………」
「良かった…!」
朱羅の答えを聞いた瑪瑙は、ほっと胸を撫で下ろす。
「お洗濯はもう終わった?まだなら手伝うよ」
「問題ない。もう終わった」
「そっか」
瑪瑙はそう言うと、近くのブロックに腰を下ろす。
その後、瑪瑙は何も語らず、ただ、朱羅の傍にいた。
静かで暖かく、そして優しい空気に包み込まれた中、朱羅も黙って瑪瑙の隣に腰を下ろすと、瑪瑙の、ほんのり甘く優しい香りが静かな風に乗り、朱羅の鼻を擽る。
瑪瑙は朱羅と目が合うと、無言で微笑んだ。
その瑪瑙の笑顔を見た朱羅は、不意に静寂を破った。

「……瑪瑙は、どんな俺でも受け入れてくれるだろうか……」

静かな言葉が、空気を僅かに振るわせる。

「……え……?」
朱羅の問い掛けに、瑪瑙は朱羅に視線を向け、小首を傾げる仕草を見せる。
「…本当の俺は、人を犠牲にする事でしか生きられない人間だ。それに……面倒な体質も生まれながらに持ってしまっている…。……それでも瑪瑙は……―」
「朱羅君は朱羅君だよ」
「―っ……」
今度は朱羅が目を丸くし、瑪瑙を見つめる。
「朱羅君の過去に何があったのか………私には分からないけれど、それでも私にとって、朱羅君は朱羅君だから」
にっこりと柔らかい笑みを浮かべ、瑪瑙は答える。
「それにね、私………もっと朱羅君の事、知りたいなって……そう思ってるの」
「……俺の事…?」
「…うん。朱羅君の事」
朱羅に問い返され、少し恥ずかしそうに瑪瑙は微笑む。
「……………俺も、瑪瑙が昨日、俺に話してくれた事が嬉しかった」
ぽつりと、朱羅は呟く。
「ふふ。みっともないところ、見せちゃったけどね」
肩を竦ませ、瑪瑙は先程同様、少し気恥ずかしそうに笑みを見せる。

そんな瑪瑙を 朱羅はいつまでも見ていたいと思っている自分に気が付いた

―と同時に その想いに動揺することや、そんな自分を戒めることもしない自分にも気が付いた
極自然に、当たり前の様に、朱羅は瑪瑙を見て感じ、想ったのだ

そして…


― あまり時間がないよ、朱羅 ―


瑠架の言葉が頭に響く。
瑠架のその言葉は、以前から朱羅の中にあった嵐の前の静けさと呼べるような胸騒ぎを、ただの不安や勘と言った不確かなものから確固たるものへと変化させてしまった。
だからこそ、朱羅は決めた。

「1度に全部は話せないかもしれないが………それでも構わないか?」
朱羅は視線を上げ、瑪瑙を真っ直ぐ見つめて問う。
「―!勿論だよ!」
瑪瑙の表情に、ぱぁっと花が咲く。
「…少し、話を纏めたいから今日は難しい。…明日か……明後日でも大丈夫か?」
「うん!朱羅君が、話せる…話したいと思った時でいいよ」
朱羅の手をそっと握り、瑪瑙は優しく声を掛ける。
「…ありがとう」
「…ふふ。朱羅君って、本当に真面目で優しいひとだね」
「………」
「…真面目で、真っ直ぐで、強くて………そして、とてもとても優しいひと………」
握る朱羅の手を見つめ、瑪瑙は自分の中で大きくなっているその想いを確かめるように呟いた。
「………ありがとう」
「―え…?」
朱羅の思いがけない言葉に、瑪瑙は目をぱちくりとする。
「……あ、いや………。瑪瑙が、俺のことをそう思ってくれていることが、少し………嬉しく感じたから」
「………朱羅君………」
瑪瑙は、朱羅の"変化"に驚いていた。
今までの朱羅は"優しいね"と言えば、無言で眉を顰めるか、"優しくない"と否定するかのどちらかだった。
だが、今の朱羅は"ありがとう"と、そして、そう思われていることが"嬉しい"と言った。
その朱羅の変化を目の当たりにした瑪瑙は、目を細め、朱羅に伝える―
「………朱羅君だって………幸せになっていいんだよ…」
瑪瑙は朱羅の両手を優しく握り、朱羅の胸にそっと額を乗せる。
「…瑪瑙………」
朱羅は彼女の名を呼び、彼女の手を握り返す。
「朱羅君は、今まで沢山沢山傷付いて、その度に自分を責め、戒め、悔いてきたんだもの………。もう、自分を必要以上に追い込む必要なんてないんだよ……?」
瑪瑙は顔を上げ、切なそうでありながらも、朱羅の幸せを心から願う優しく暖かい表情で朱羅を見つめる。
「………そう………なのかもしれないな………」
朱羅はそう答え、静かに、ゆっくりと、瑪瑙の額に口付けた。


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