+ ACT.27  互いに告げる想い ( 2/2 ) +
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「………」
彼女の背中を数秒見つめた後、朱羅は瑪瑙に視線を向け、ゆっくりと歩み寄る。
すると、瑪瑙はそんな朱羅の行動にビクッと身体を反応させ、両手を胸に当て、身体を僅かに小さくさせる。
「………瑪瑙―」
「ぁっ……あの、えっと………」
瑪瑙は自分の前に立つ朱羅から視線を外し、少し距離を取り、必死に言葉を探しているようだった。
「そ、そう…!今、優斗君とアンスズ君とパース君が斎君の所に行ってくれてるの………!要君も他の子が呼びに行ってくれてっ………」
「………瑪瑙………」
「そ、それより怪我………!怪我、きちんと手当てしないと―」
「瑪瑙」
「―っ………」
朱羅は彼女の名を呼び、彼女の手を握る。
「…驚かせてしまってすまない…。君に、きちんと話しておきたかったのに………」
「………朱羅君………」
瑪瑙の手を強く握り、悔しさや後悔、そして、自分に対する憤りのような色を乗せながら、朱羅は彼女に伝える。
「…さっきの人とは、そういう………関係ではないんだ………」
「………"そういう"………って、何………?」
「え………?」
自分にそう問い掛ける瑪瑙の目は、朱羅の答えを待っていた。
「……………さっきの人はAsuraの社長の妹で……………俺がAsuraにいた頃、俺の面倒を見てくれた人で………」
「―うん」
瑪瑙の手を握っていた朱羅の手が離れ、朱羅は思わず彼女から目を逸らしてしまう。
「………肉体関係は………あった………」
「……………」
朱羅の小さな声で告げられた告白に、瑪瑙はただ黙って聞いていた。
「………済まない、瑪瑙……」
「………何故、朱羅君が謝るの?」
「………」
瑪瑙は、朱羅の目を見つめる。
「私が朱羅君にお話させてしまったんだもの。朱羅君が謝ることはないよ」
瑪瑙は眉を下げ、朱羅を見つめてそう答えた。
「……………言い訳は、したくはないが……………俺は、あの人に恋愛感情を抱いたことはない。あの人も、俺にそういう感情は抱いていない」
「………でも、あの人のお兄さんには………抱いていたんでしょう……?そういう感情を………」
「っ………」
瑪瑙の思わぬ言葉に、朱羅は目を見開く。
「どうしてだろうね……。朱羅君を見ていたら、何となく…そうかなって………」
自分の手を離した朱羅の手を、今度は瑪瑙が握り締め、続ける。
「………朱羅君は、今でもその人のことを………愛してる………?」
そう問い描けながら朱羅を見つめる瑪瑙は、何かを求めているようで、それを朱羅に無理強いさせたくないと思っているような、複雑な表情を見せていた。
「……正直、まだ特別な感情は抱いてはいるが………、もう俺は、瑠唯さんに恋愛感情は抱いてはいない」
「…その"特別な感情"は、きっと朱羅君がAsuraにいた過去が関係しているんだね…」
「……………あの人は、俺の全てを知っても尚、向き合ってくれた初めての人だったから………」
「………羨ましいな………」
「………え…?」
握っていた朱羅の手を離し、瑪瑙は朱羅に背を向け、続ける。
「………私も、朱羅君のこと、もっともっと知りたい………。瑠唯さん………みたいに、朱羅君の全てを知りたい………」
そう語る瑪瑙は、朱羅に背を向けたまま、朱羅の方を見ようとしなかった。
「………御崎やお父さんやお母さん…御崎の両親がいなくなって………でも、斎君や要君達が傍にいてくれて………。それでもやっぱり御崎の事は忘れられないけど………それでも私………朱羅君と出逢って、朱羅君とお話して……………いつの間にか、朱羅君の傍にいると気持ちが安らいで………それで、朱羅君の傍にいたいって………そう、思うようになってる自分に気が付いて………」
「………瑪瑙………」
「どうすればいいんだろうって………最近ずっと考えてたの…。御崎を裏切りたくなくて、でも…御崎の想いや、最期の願いも裏切りたくなくて………」
瑪瑙は、自分の腕を強く握り締める。
「だから………朱羅君に抱いてる特別な想いも………どうすればいいのかわからなくて………。いっそ、忘れてしまった方がいいのかもしれないって考えたこともあったけど……………私、やっぱり出来ない」
朱羅に背を向けていた瑪瑙は、再び朱羅の方に身体を向け、彼の目を見つめる。
「今、朱羅君とあの人の関係を見て………私、羨ましいって………そう…思ったの………」
瑪瑙の、自分の腕を握る手には更に力が篭り、彼女の表情もまた、朱羅には辛そうに映った。
「…っ………こんなこと、急に話してごめんなさいっ………」
瑪瑙の瞳からは涙が零れ落ち、瑪瑙は自分の泣き顔を隠すように両手で表情を覆い隠すが…


「でも私、……………朱羅君が好きっ………」


両手で顔を隠し、再び朱羅に背を向けながらではあったが、瑪瑙は自分の素直な気持ちを吐き出すように言の葉に乗せる。
瑪瑙はそれだけ告げると、次の言葉を発することが出来なかった。
彼女自身、整理の付かないまま朱羅自に伝えてしまった自分を許せないと思ってしまったのか、朱羅に迷惑な一方的な自分の感情を告げてしまった自分を悔やんでいるのか、彼女はただ、泣いていた。
「………俺は、瑠架さんとのあの状況を瑪瑙に見られて、誤解されてしまったんじゃないかって………真っ先にそう思ったんだ」
朱羅は、言葉を捜す様にゆっくりと続ける。
「瑪瑙に…誤解されたくないと、俺は思った」
未だに自分の方を向けないでいる瑪瑙に、朱羅はただ続ける。
「………君には……君だけには、誤解されたくない。………だって俺は………」
瑪瑙の手をそっと掴み、朱羅は続けた―


「瑪瑙の事が、好きだから」


その言葉を聞き、瑪瑙の身体はピクリと反応し、顔を覆っていた両手もゆっくりと下ろされ、自然と彼女の身体は朱羅の方を向いた。
「…………朱羅………君………?」
今、朱羅から告げられた言葉が唐突過ぎて、瑪瑙は混乱しているようだった。
朱羅が握っている彼女の手が、小さく震えていた。
「好きだ、瑪瑙。ずっと、君の傍にいたい。君の笑顔を護りたい」
「―ッ………!」
思わず朱羅の胸に飛び込む瑪瑙を、朱羅は優しく両腕で包み込む。
様々なことが一度に起こり、瑪瑙の混乱は未だ続いていたようだったが、朱羅の腕に抱かれて泣く彼女には、朱羅の本当の想いは伝わったようだった。
「俺にとって君は……………今思えば、出逢った時から特別な人だったんだ」
「ふっ………―っく………朱羅、君っ………」
「―あ、済まない。血で汚れる―」
自分の怪我の事を思い出した朱羅は、瑪瑙が汚れぬように離れようとするが、瑪瑙はそんな朱羅を抱きしめた。
「………いいの………このままで、いいの………」
瑪瑙の願いを受け取った朱羅は、離れるのを止め、瑪瑙を抱きしめ続けた。
「―あっ…」
瑪瑙はハッと何かを思い出し、朱羅と少し距離を取る。
「ごめんなさい…!朱羅君、怪我してるのにっ…。痛かったよね、ごめんなさ―」
朱羅の怪我を案じ、距離を取ろうと動いた瑪瑙だったが、朱羅の両腕が彼女をしっかりと抱きしめた。
「………ありがとう…瑪瑙。こんな風に誰かを純粋に愛せたのはきっと………君が初めてだ………」
「っ…………」
朱羅の優しく穏やかな声色が瑪瑙の心に深く刻まれると、彼女の涙が自然に溢れてきた。
「………ごめ、なさいっ………。本当に私、………最近ずっ……と、朱羅君の前で泣いてばかり、でっ………」
瑪瑙は必死に泣き止もうと涙を拭おうとしたが、朱羅の手がそっとその手を握り、空いている方の手で優しく瑪瑙の涙を拭った。
「謝る必要はない」
それだけ言うと、朱羅は瑪瑙の額にキスをする。
「………ありがとう………」
朱羅らしい端的な言葉に、瑪瑙は思わず微笑む。
「……やっと笑ってくれた……」
「―っ………」
不意に見せられた、優しく暖かい朱羅の笑顔に、瑪瑙の笑顔は一瞬で驚きの表情に変わる。
「…ん?」
無意識に、無自覚に瑪瑙に向けられた朱羅の笑顔は、瑪瑙のその表情を見たことにより、きょとんとした表情に変わっていた。
「………ふふ。ううん、なんでもない………」
瑪瑙はそう笑うと、朱羅の両手をそっと握る。
「……まだ御礼、してなかったよね。私達の家を護ってくれて、私達を護ってくれてありがとう、朱羅君」
怪我を負ってしまった朱羅への謝罪の色を乗せた表情でもあったが、瑪瑙は笑みを浮かべて朱羅に感謝の気持ちを伝える。
「―護れて良かった…」
自分の手を握る瑪瑙の手を握り返し、朱羅も彼女に応える。
「朱羅さん!瑪瑙さん!大丈夫ですか…!」
ホームの中から優斗が2人に駆け寄ってくる。
「……優斗……?」
朱羅は瑪瑙からそっと手を離し、自分達の方に駆け寄ってくる優斗を見て小首を傾げると瑪瑙を見る。
「…どうしたの、朱羅君?」
そして瑪瑙もまた、小首を傾げる。
「…いや、瑪瑙はさっき、優斗達は斎を呼びに行ってるって…」
「…え…!わ、私、そんなこと、朱羅君にお話してた……?!」
どうやら混乱の中で勝手に出た言葉だったらしく、瑪瑙は自分が話した内容を覚えていないようだった。
「瑪瑙さんが"私がいいって言うまで外に出ないで"って言って飛び出してしまうから心配したんですよ…!」
2人の下に到着した優斗は、瑪瑙を見て訴え掛ける。
「えっ……あ、あれ………。私、そんな事、言ったの………?」
「言いましたよ…!あの後、瑪瑙さんの後を追うべきだっていう意見と、瑪瑙さんの言うことは護るべきだっていう意見が出て、大変だったんですから……!」
「ごっ…ごめんなさい……」
瑪瑙は気恥ずかしそうに、申し訳なさそうに反省の色を見せる。
「…って朱羅さん!怪我してるじゃないですか…!」
瑪瑙から朱羅に視線を向けた優斗は、朱羅の怪我を見て驚きの声を上げる。
「…いや、応急手当はしてあるから大丈夫だ。それよりも、斎や要を呼んで来た方がいい」
朱羅の表情が変わる。
「時間はあまりない。これ以上、俺も皆に隠し事をしているわけにはいかない」
「隠し事…?」
「朱羅君………」
優斗はきょとんとした表情を、瑪瑙は朱羅を案じる表情を見せる。
「瑪瑙、済まない。君には先に話しておこうと思っていたのだが…」
「ううん。さっき、少しだけど朱羅君は私に話してくれたから…。それだけでいいの。朱羅君が時間がないと言うんだから、急いだ方がいいんでしょ?」
「…ありがとう、瑪瑙。優斗、君と後2人くらいで斎と要を呼んできてくれないか?」
「わ、わかりました…!」
朱羅の表情や彼を纏う空気に、幼いながらも事態をある程度理解したのだろう。優斗は素直に朱羅の言葉を聞き、メンバーに声を掛ける為、ホームへと走って行った。
「…朱羅君、皆に辛い過去のこととか……話すって決めてくれてありがとう…」
瑪瑙は優斗の背中を見た後、朱羅に視線を向ける。
「…仲間……だから…」
朱羅もまた、瑪瑙を見つめながら答える。
「そうだね。私達、家族であり仲間だもんね」
瑪瑙は朱羅の答えに笑みを浮かべ、そう答えた。


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