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大切な仲間達に、隠し事はしなくないと思ったんだ






 ACT.28  皆に委ねるホームの意思






「話すのは構わないんだけどさ…怪我、本当に大丈夫なのか?」
斎の個室にいるのは、優斗達に呼ばれ、急いで戻って来た斎と、そんな斎に自分のことやAsuraのことを話すと告げた朱羅の2人。
朱羅がそれより先に話したことは、自分が何故怪我を負っているのか、そして、ホームに残っていたメンバー達が何故不安げな表情をしているのか、という内容だった。
理解の早い斎は朱羅の端的な内容で状況を理解し、朱羅が皆に話したいと自分に持ち掛けてきたことにも賛同しているが、強靭な精神力や高い戦闘能力を持っているとは言え、華奢な朱羅の身体に包帯が巻かれ、痛々しい姿を見ると、斎も心配せずにはいられなかった。
「問題ない。俺の中のキリスの血のお陰…で、自然治癒力は高いから」
「っつか…お前、あのヤローに首を噛み付かれたって聞いたけど……」
斎は、朱羅の首筋の包帯にそっと触れながら、彼の身を案じる表情で問い掛ける。
「彼の能力を向上させた薬は…元々俺の―キリス種族の血を元に作られたものだと聞いた。だからだろう。その薬を摂取した彼が、もっとその血が欲しいと暴走したのは」
「…相変わらず冷静だなぁ朱羅は。普通、自分の首に噛み付かれて血を吸われたりしたら結構ショックだと思うけど…」
「彼の姿を見て、彼の言葉を聞いて、大体の事は直ぐに察しがついた。だから、驚きはしない」
「…お前がAsuraで一体どんな生活をしてきたのか、改めて俺は不安になっているとこだけど………」
斎は一旦そこで言葉を区切り、朱羅の目を見る。
「出来る限り早い方がいい。もう、Asuraは動いている。俺の過去や本当の姿は………此処の皆に、少なからずショックを与えてしまうだろう…。けれど、また襲撃を受けた時に本当の俺の姿を見られるよりは、今話していた方がいいと思う」
「わかってる。そんな緊急事態の時にお前の暴走してる姿を見ようものなら、皆はパニックになるだろうしな」
そう答えると、斎はドアを開け、朱羅を見る。
「必要だと判断すれば、俺もフォローする」
「ありがとう、斎」
そして2人は皆の待つ大広間へと向かった。



*



ザワザワと落ち着かない雰囲気が周囲を取り囲む中、1人の少年が口を開く。
「えっと………難しいことはちょっとわかんないんだけど……要するに、朱羅は俺達人間よりも強い種族の人で、Asuraで研究されてて、そこで色んな実験をされて………で、そこを抜け出して俺らのトコに来たって………そういうこと?」
少年は、自分達の前に立つ朱羅の話した内容を自分の言葉で要約する。
「そういうことになる」
朱羅は短い言葉で答える。
「―で、その"キリス種族"ってのが、俺は御伽話か迷信かと思ってた、かつては大陸最強と謳われた種族で、その血が暴走すれば、朱羅の自我も失われ、俺等にも危険が迫るってことだな?」
要が両腕を組み、朱羅に問う。
「―ああ。今までも、自分の意識が途切れ、意識が戻った頃には近くに人が死んでいたことも実際にあった。…だから、俺は君達にとって必ずしも安全な存在ではないことを話しておきたかった」
朱羅は真っ直ぐに要を見つめ、そして自分の前に座り、話を聞いている少年達にも視線を向ける。
そしてその話を聞いた少年達は、わかりやすい程の不安の色を表情に乗せ、ざわめき始めた。
「…そ、それじゃあ………朱羅が暴走…?―したら、僕達、もしかしたらこっ………殺されちゃうかもしれないってこと………?」
1人の少年が身体を僅かに震わせ、両手を強く握り締め、恐る恐る問う。
「………ああ。その危険は0とは言えない」
「じゃ、じゃあ!朱羅は俺等にとって危険な存在ってことじゃんか!」
先程とは別の少年がその場に立ち上がり、声を荒げる。
その少年の言葉が周囲に響くと彼の不安が周囲にも感染し、一気に不安の声が上がる。
「俺達が朱羅に殺されるかもしれないって………そんなのやだ…!」
「だったら朱羅は此処にいちゃ駄目なんじゃないの…!」
「こんな危険な人、此処に置いていてもいいんですか!」
「皆、落ち着い―」

「―テメェら、何勝手なことぬかしてんだ」

斎が皆を落ち着かせようと声を上げると同時に、低音で胸に響くような言葉が少年達の不安を乗せた言葉を一気に掻き消す。
「今までコイツに助けられておきながら、ちょっと危険だとわかったらとっとと切り捨てんのかよ。あ?」
―そう、少年達に続けたのは、変わらず両腕を組み、壁に背を預けて立っている要だった。
「確かに俺もコイツは危険人物だとは思ってる。だけどよ、今まで俺達は、コイツに何度助けられた?」
「―っ………それは………」
朱羅のことを非難していた少年達は、要のその言葉を聞き、黙り込んでしまった。
「少なくとも、今ここで自分が俺等にとって危険だと告白したコイツ自身は、故意に俺等を傷付けたいと思っていねーってことだし、自分自身の処遇も、俺等に任せるって意味で今俺等に話してんだろ」
要は、そう言いながら朱羅を見つめる。
「―要の言う通り、俺を此処に置いてはおけないと皆が判断すれば、俺は素直にそれを受け入れ、すぐに此処を出て行く」
「………朱羅君………」
後方に立って話を聞いている瑪瑙は、僅かに眉を顰めた。
「だから俺は、皆の意見に従う」
この場にいる全員に語りかけるように、朱羅は周囲に視線を向け、そう告げた。
「…僕達に……って言われても………ねぇ…?」
「………でも、要の言うことも確かだよな……」
「…朱羅、あんな怪我してまで俺等のこと、護ってくれたのは事実だし………」
再び、少年達はざわつき始めた。
要はそんな少年達を見ると目を閉じ、口を閉ざす。
そして、朱羅のやや後方に立っていた斎は少し脚を進ませ、朱羅の隣に立つ。
「皆に考えて欲しいのは、朱羅がもしかしたら暴走し、俺達に危害を加える可能性が0ではないということ。そして、それでも朱羅は俺達にとっては大きな戦力であり、支えであるということ。それだけだ。それも踏まえ、皆は朱羅を此処に置いておいても良いと思うか?」
「…あの…」
「どうした、ハイクリス」
ゆっくりと、どこか恐る恐るという雰囲気を出しながらハイクリスと呼ばれた少年は手を挙げ、斎に質問をする。
「…朱羅は此処に置いておくとして………もし朱羅が暴走したら………どうするんですか………?」
他の少年達もその答えを知りたかったのだろう。彼のその質問を聞き、他の少年達も一気に斎の答えを待つ為、視線を向ける。
「朱羅が自分で申し出たんだが………その時は、自分を止めて欲しいそうだ。どんな手を使ってでも」
「どんな手って………?」
「止められないと思ったら、俺を殺しても構わないということだ」
淡々と朱羅が問い掛けに即答する。
「朱羅を………殺す………?」
そう答える朱羅自身の迷いのない真っ直ぐな言葉が、少年達に少なからず動揺を与える。
「―ああ。俺が暴走し、手が付けられないと判断した場合、俺は君達に殺されても構わないと思っている」
「朱羅君っ…!」
居ても立ってもいられなくなったのであろう。瑪瑙は、普段では出すことのない声量で朱羅の名を呼ぶ。
「でも、―いや、だからこそ、そう覚悟してでも俺は此処にいたい。皆と共にいたい」
朱羅は自分を真っ直ぐ見つめ、哀しげな表情を見せる瑪瑙の瞳を真っ直ぐ見つめ、穏やかでありながらも強い意志を感じる言葉で、彼女と仲間達に訴えかける。
「…朱羅さんは、僕達のことをどう思っていますか?」
そう問い掛けてきたのは優斗だった。
「君達は俺にとって仲間であり、大切な家族だ。だから俺は此処に残り、皆を護りたいと…そう思っている」
自分の問い掛けに迷うことなく即答する朱羅の姿に、優斗は思わず微笑む。
「それを聞いて安心しました。僕は、朱羅さんは此処に残って欲しいと思ってます」
優斗もまた、迷うことなく自分の意思を皆に告げる。
そんな優斗の姿に刺激を受けたのか、心を打たれたのか…他の少年達も自分の意思を告げ始める。
「………朱羅が、そこまで覚悟を決めてるなら………僕も、朱羅が此処にいることに賛成………かな」
「いざとなったら斎と要が朱羅をとっちめてくれるっつーなら俺も賛成だ!」
「朱羅さんに助けられたのも1度だけではないですしね」
「っ………皆………」
不安な表情を見せていた瑪瑙だったが、皆の意思を聞き、少しずつ表情を綻ばせる。
「今後も何かあったときにはこんな風に皆の意見を聞き、俺だけの意思で物事を決定する事はしない。だから、安心して決めて欲しい。―朱羅を此処に置いておくことに賛成の人は挙手!」
斎のその言葉に、ホーム内の全員が手を上げた。
「本当にテメェが暴走してあぶねぇと思えば殺すからな。そのつもりでいろよ」
挙手をした後、すぐにその手を下げた要は、朱羅に向かって少々悪態のようなものをついた。
「ああ。その時は宜しく頼む」
「―チッ」
朱羅の真っ直ぐなその言葉に、要は目を逸らし、舌打をする。
「なんだぁ要〜。朱羅が真っ直ぐお前を見つめて答えるもんだから、愛の告白かなんかだと思ったのか〜?耳が赤いぜ〜?」
「うっせぇ!!」
「あだっ!」
自分を茶化して来る斎に、要は更に耳を赤らめさせながら右手の拳で斎の頬を殴った。
―と、その衝撃で斎は半回転すると壁に全身をぶつけ、その場に崩れ落ちた。
「斎ー、要はツンレデなんだからそういうことすんなって〜。Mだなぁ斎は!」
「ツンデレじゃねぇ!!」
「あぐっ!」
アンスズがぶっ倒れた斎を見下ろしながらそう茶化すと、要は更にアンスズにゲンコツを食らわせ、黙らせる。
「全くもう…斎君ったら、わかっててそういうこと言うんだから」
床に座り込み、右頬を押さえている斎に、濡れたタオルに少しだけ氷を巻いてきたものをそっと手渡す瑪瑙。
「あだだだだ………んでも、それが俺の役割でもあるしな」
「斎君のお陰で、ちょっと重かった空気も吹き飛んだもんね」
床に膝を付き、斎に寄り添う瑪瑙は顔を上げ、いつの間にかいつも通りの賑やかで騒がしい雰囲気に戻っている皆を見て、安堵の表情を浮かべる。
副リーダーの要は未だ少年達にからかわれ、少年達も楽しそうにそんな彼を弄り続けている。
「朱羅君も、本当に良かった………」
斎を挟んだ向かいに立っている朱羅に、今度は声を掛ける瑪瑙。
「…思ったよりもずっと早くに受け入れられて………正直、少し戸惑ってる…」
あっという間に結果が出たことに、朱羅は戸惑いを隠せないようだった。
「朱羅が何度も俺達を助けてくれた実績が1番大きかったんだろうな。それがなかったら、どんなに俺が言葉で説得しても、アイツ等はきっと納得し切れずにいただろう」
「………そうか」
「ああ。今回も護ってくれてありがとうな、朱羅」
斎は空いている片手を朱羅に差し出す。
「―いや。皆を護れて良かった…」
差し出された斎の手を素直に握り、互いに握手を交わす斎と朱羅。
「本当にありがとう、朱羅君。それに、斎君にも改めて感謝してる。いつもありがとう、斎君」
握り交わされた2人の手の上に、瑪瑙はそっと両手を乗せ、朱羅と斎を順番に見つめ、感謝の言葉を伝える。



*



Asura内にある研究室の一室。
その室内に設置された透明のカプセルの中に入れられ、容態を視覚化されているのは、暴走した後、此処に運び込まれたアルトゥルだった。
「オリジナルの血を多量に摂取するなんで馬鹿なことを…」
1人白衣がモニターを見ながら呆れ返る。
「でも、元々彼は強い力を欲していたのだから、あの行為はある意味まともな行為とも取れると思うが?」
そんなモルモットを見つめ、淡々とした口調で言葉を返したのは監視役の瑠架。
「それはそうですが…」
「それに、"彼"で試してみるといいと言ったのは私だからね。彼ばかりが責任を負う立場ではないよ」
「…瑠架様…」
「ふふ。結果的には彼の暴走によって中断されてはしまったが、、流石の朱羅も傷を負う自体となったからね。悪い結果ばかりではなかったよ。―それに、私も朱羅の血も久々に直接摂取出来たからね」
瑠架は自分の唇を指でなぞり、舌で舐め取る。
「…と、今回の結果ばかりを話していても仕方がない」
瑠架は話題を変え、テーブルの上にいくつか置かれた中で、アルトゥルや他の実験体から入手したデータを纏めてある小さなICチップを1枚手に取ると、近くに置いてある小型の端末に差し込む。
すると、視覚化された様々な情報が表示され、彼女はそのデータに視線を向ける。
「No.2253の中に眠る力への強い欲求は、我々が思っていたよりも強かったようだ。だから2253はオリジナルである朱羅の血を求め、結果的に暴走してしまった」
「その辺りもうまく調節出来る様に調整します」
「ああ、そうしてくれ。脳のリミッター解除も、安定するまではこちら側で操作出来る様にしておいてくれ。それじゃあ、後のことは宜しく頼む」
「了解しました」
瑠架が研究員達に声を掛けて廊下に出ると、秘書と数人のスーツを着た男達と共にいる瑠唯の姿を見付けた。
「おや、瑠架じゃないか。調子はどうかな?」
彼女に気付いた瑠唯は、秘書の持つスケジュールデータが映し出されている端末から視線を移し、普段通りの穏やかな表情で妹に問う。
「今のところ大きな問題はありませんが……そうですね、兄さんにはお伝えしておこうと思うことがあります」
「そうか。それじゃあ君達は先に行っててくれ」
「承知しました」
秘書が一礼すると他のスーツの男達も一礼し、瑠唯に言われたようその場を後にした。
「それで、話とは何かな?……と、朱羅と会ったのかい?」
瑠架についている朱羅の匂いを敏感に感じ取った瑠唯は、そう瑠架に問い掛ける。
「はい。昨日、朱羅と会いました。その時に、RPK-210を投与した被検体No.2253がオリジナルである朱羅の血を摂取し、暴走した後に此方に収容、現在は容態を観察中です」
「………あのモルモットが朱羅の血を………?」
その報告を聞いた瑠唯の指がピクリと動く。そして、それまで穏やかだった瑠唯の纏う空気が一気に凍てつくが、瑠唯は構わず、表情も一切変えずに続ける。
「はい。元々力への貪欲さは高かった被検体ですからね。オリジナルの血を摂取すればもっと強くなれると本能的に感じたようです」
「…朱羅の容態は…?」
「問題ありません。怪我は負いましたが、彼の治癒能力なら数日で完治するでしょう」
「………そうか―」
「―んっ………」
瑠架の言葉を聞いた瑠唯は突然瑠唯の腕を強く引き寄せ、細い腰に腕を回すと、そのまま口付け、キスを受ける瑠架には全く動揺する様子はなく、表情を変えず、兄のしたいようにさせる。
彼女の唇を貪るように何度も何度も濃厚なキスを続ける瑠唯は、彼女の身体を壁に押し付け、尚も強引で濃厚なキスを続ける。
「―はっ………はぁ……はぁ………」
「んっ………はぁ………」
瑠架のボディースールのファスナーを胸下まで降ろし、彼女の乳房を何度も手に収め、揉み下しながの濃厚なキスを止めると、瑠唯は唇を離し、自分と瑠架の唇に繋がっている銀糸を指で切り、瑠架の身体を解放する。
「…瑠架も、朱羅の血を飲んだんだね…」
瑠唯は目を細め、瑠架を見つめながら言葉を発し、言葉を投げられた瑠架はファスナーを上げ、唇を指で軽くなぞると答えを続ける。
「ええ。朱羅の怪我の手当ての代金です。それに、私も傷を負った朱羅を見て、その血が欲しくなってしまったので」
「………」
瑠架の答えに、瑠唯はほんの僅かに表情を曇らせ、眉を顰める。
「兄さんも、そろそろ限界なのでは?」
細く長い銀色の髪を片手で靡かせると、瑠架は不意にそんな言葉を兄に告げる。
「いくら私が朱羅と交わってきて、兄さんが私伝いで朱羅を感じても、兄さんの欲求は収まるどころか悪化するだけだと思いますが」
「………そうかもしれないね………」
静かにそう答えると、瑠唯は瑠架に背を向け、廊下を歩き出す。
「ああそれと兄さん」
瑠架の呼び止めに脚を止める瑠唯。
「あれでも大事なモルモットなので、No.2253には手を出さないでくださいね?」
その呼びかけに、瑠唯は後方に立っている瑠架を見ずに答える。
「………わかっている………」
それだけ言葉を返すと、瑠唯はその場を去って行った。
「―兄さんも、一体いつまでもつのかな」
兄の後姿を見た妹は、静かに呟いた。

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