+ ACT.28  皆に委ねるホームの意思 ( 2/2 ) +
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ホームでの食事は朝夕の1日2回。
昼食はなく、その代わり、多少材料があれば斎や瑪瑙がおやつ代わりのものを作ることもあった。
今日は、いつも世話になり斎達も食材運び等を手伝っている顔見知りの女性から、材料をタダでいくつか貰うことが出来た為、久し振りに斎と瑪瑙がキッチンでおやつを作っていた。
代わる代わるその様子を見にやって来る少年達を構いながら、時にあしらいながら調理を進める2人。
そうして少年達の様子見が落ち着いた頃、要がひょっこり顔を出した。
「あ、こら要!つまみ食いは禁止!」
「っせーな。たったこれっぽっちだろ」
皿に盛り付けられていたクッキーのようなお菓子をひょいっと口に頬張る要に、斎は注意する。
「ふふ。美味しい?」
「ああ。美味い」
「相変わらず瑪瑙には優しいのなぁお前」
「たりめーだろ。ヤローに優しくするなんて気持ちわりぃ」
指に付いたお菓子の滓を舌で舐め取り、そう答えた要はキッチンを挟んだ向かい側にある椅子に腰掛ける。
「でもさ、お前。朝、朱羅のこと庇ってだよなぁ?」
「あ?」
にやにやとした分かりやすい表情を見せながら自分に声を掛けてくる斎に、要はガンを飛ばす。
「朱羅は美人さんだからなぁ!仕方ないっちゃあ仕方ないけど………お前、もしかして朱羅に惚れたぁ?」
「相変わらずくだらねぇことで暇を潰すんだな、テメェは。んな訳ねーだろボケ」
昔から斎のわかりやすい茶化し方を受けてきた要は、普段通り軽く受け流す。
「でも、あそこで要君があんなことを言ってくれるなんて、私、ちょっと吃驚しっちゃった」
瑪瑙は微笑みながら要に話し掛ける。
「俺は事実を言ったまでだ。実際、アイツは此処を護ったし、瑪瑙や皆も護った実績があるからな。何より、ガキが多い此処じゃあ多少危険であったとしてもアイツは大きな戦力だ」
「お前のその、口は悪くて粗雑でも、認めるところはちゃんと認めるとこ、俺は好きだぜ?」
「ヤローに言われても嬉しくねぇ」
「私も好きだよ。要君のそういうところ」
「………そうかよ…」
斎の褒め言葉は蹴る要だったが、瑪瑙から満面の笑みを向けられて少々気恥ずかしくなったのか、彼は視線を外してしまった。
「うっわぁ〜………わっかりやすい反応ぉ〜…。差別だ差別だぁ!」
「うっせぇなボケ!!」
「ふふ。斎君と要君も仲がいいよね」
瑪瑙が来た当初から変わらない2人のやり取りを見て嬉しくなった瑪瑙は嬉しそうに微笑む。
「ま!こんなんだけど、俺は要と1番付き合い長いからなぁ」
「腐れ縁だろ」
「そんな感じですねぇ」
ハハッと笑う斎と、呆れるような表情を見せながらも何処かまんざらでもないような表情を見せながら頬杖をつく要。
「俺もさ、ちょっと悩みはしたんだよ。朱羅が自我を手放した時、本当に俺達でどうこう出来るのかって」
先程まで浮かべていた笑みを顰め、真面目な表情を見せる斎。
「ま。そこは実際になってみねぇとわかんねぇな」
「いや、それはそうだけどさ」
意外に楽観的な返答を返す要に、斎は少々気が抜けてしまう。
「っつか、Asuraの人間が手を出してきたのはアイツが原因だろうけどよ、BHが手を出してきたのはアイツ等の言う"生意気なガキ"ってのを今まで散々見せてきた俺等の方に原因があるんだろうしよ、お互い様だろ」
「確かに朱羅が来る前からBHが手を出してくることはあったしな」
「そこに立派な企業のAsuraも絡んで来たとなれば、戦力が多いにこしたことはねぇと俺は考えたまでだ」
「でもさ、昔のままの朱羅だったら、例え大きな戦力になったとしても、要は朱羅を置いておかなかったんじゃねぇの?」
斎は古びた旧型のレンジからクッキーの乗った鉄板を取り出し、皿に盛り付けながら問う。
「あの機械人形みてぇだった頃の朱羅だろ?たりめーだ。あんな薄気味悪ぃ奴、強くたって置いておけるか」
ケッと、要は悪態をつくように答えながら出来立てのクッキーに手を出すが…
「ま。そこは俺も同感だけどな」
斎がクッキーを並べる皿に伸ばされた要の手を、斎はペチッと手で叩き返す。
「チッ…」
要は斎のその行動に舌打をする。
「2人から見て………朱羅君は変わった?」
瑪瑙は荒いものをしながらそんな2人に問い掛ける。
「ああ、変わった。昔は綺麗なお人形みたいだったけど、今ではちゃんとした1人の人間だ」
「多少は人間らしくなったんじゃねぇの?自分の口で此処にいてぇと言えるくらいには」
「……そっか……」
2人の答えにほっとした瑪瑙は胸を撫で下ろし、笑みを零す。
「朱羅が何を考えているのか、ちょっとわからないとこもあったけど、アイツが自分のことを自分の言葉で話してくれてさ、アイツの置かれた状況も、辛い過去も知って、アイツのことが昔よりわかったからかな。アイツも1人の人間なんだって思えたのは」
クッキーを全て盛り付け終わった斎は箸を置き、出来栄えを最終確認してから満足気な表情を見せる。
「それにアイツ、最近じゃあアイツなりに他の皆にも話し掛けてるみてぇだしな」
「確かに、前まで朱羅のことをどこか遠ざけてた奴等も、最近じゃあ朱羅と話してるのを見るな」
「うん、そうなんだよね。朱羅君、少しずつ皆と打ち付けてるみたいで嬉しい」
にっこりと微笑みながらそう話す瑪瑙と、彼女同様、朱羅の変化を嬉しく感じている笑顔の斎に釣られ、要も僅かに笑みを見せる。
「斎、頼まれていた物、全部買って来た」
「お、早いなぁ朱羅。流石!」
そんな3人の和やかな雰囲気の中、紙袋を抱えた朱羅がやって来た。
「朱羅君、怪我…本当にもう大丈夫なの…?」
まだ首の包帯が取れない朱羅を見た瑪瑙が、身を案じる。
「傷はまだ完治はしていないが、生活には支障をきたさないから大丈夫だ」
「それならいいんだけど……無理はしないでね?」
「ああ。ありがとう」
そんな朱羅と瑪瑙のやり取りを黙ってみていた斎と要。
「お前、いつから瑪瑙と付き合ってんだ?」
「………え!!」
要の不意な質問に、瑪瑙は顔を真っ赤にして目を丸くする。
「付き合っていると言うか………昨日、瑪瑙に想いを告げたばかりだ」
「朱、朱羅君っ………」
自分とは異なり、全く動揺せずに要に答える朱羅に瑪瑙の頬は皿に赤く染まり、彼女は顔を俯けてしまった。
「………」
そんな2人の様子を黙って見つめる斎に、要はチラッと視線を向け、すぐに戻した。
「―で、瑪瑙はどう返事をしたんだ?」
「わ、私っ…?!」
「そう。瑪瑙は、朱羅になんて答えたの?」
今まで黙っていた斎が、今度は瑪瑙に問う。
「あ、えっと………その………」
両手を前で組んでいる瑪瑙は、恥ずかしそうにその手を小さく動かし続けている。
「………先に好きって言ったのは私の方………で、………その後………朱羅君も好きって………答えてくれて………」
そう答える瑪瑙は、チラッと朱羅の方を見ていた。
「………そっか!」
斎は急に明るい声を発する。
「瑪瑙がそう決めたのなら俺は何にも言わない。瑪瑙が過去を乗り越えて朱羅を選んだのなら、俺はこれからも瑪瑙を応援するし、朱羅に俺達の瑪瑙を任せる」
真剣な眼差しで朱羅を真っ直ぐ見つめ、そう告げる斎に、朱羅もまた真っ直ぐ見つめ返す。
「瑪瑙のことは本気だ。だから、瑪瑙は護る」
「っ………朱羅君………」
自分の目の前で斎に誓う朱羅の姿に、瑪瑙は嬉しさを感じると共に、そんな朱羅に益々惹かれる自分に気が付いていた。
「瑪瑙は皆の母親であり大切な大切な一輪の花だからな。これがバレだら大変なことになるかもしれねぇなぁ?」
要は朱羅にそう語る。
「隠しているつもりはないが、今はいつ状況が変わるかわからないから、このことは特別話しておかなくてもいいと判断したんだ」
「俺は別に皆に話しとけ、なんて言ってねぇし。テメェの過去や素性と違って、このことは完全なプライベート事情だからな。伏せていたって別にいいんじゃねぇの」
「そのうち自然に知るだろうしな、皆」
「っつーか、前々からテメェと瑪瑙はそうなるんじゃねぇかと思ってたしな」
「要、そういうとこだけは鼻が利くよな」
「黙ってろ駄犬」
「うわひっど!ひっど!」
「事実だろーが駄犬」
「うっわまた言いやがったこのやろ!」
自分を"駄犬"呼ばわりした要に絡む斎と、そんな斎を軽くあしらう要。
「…仲がいいんだな」
「どこがだ」
「腐れ縁ですから!―って要、照れるな照れるなー」
朱羅からぽつりと発せられた言葉に、要と斎は同時に答える。
「あーうっぜ」
「あらあら。ツンデレ要君ってば照れちゃってぇ」
「…コイツ、そろそろ袋に詰めて捨ててきた方がいいんじゃねーの?」
「ゴミ袋とかひっどいなぁ!」
「ふふ。本当に仲良しだよね。斎君と朱羅君もだけど」
「………そうか?」
瑪瑙の言葉に、朱羅は僅かに嫌そうな表情を浮かべ、それを見逃さなかった斎は、今度は朱羅に絡む。
「朱羅も照れない照れない!」
そう言いながら斎は背後から朱羅に素早く抱きつく。
「って朱羅ほっそ!朱羅ほっそ!もっと食べなきゃだめだろー」
斎は朱羅の体の細さに驚くと、皿に盛り付けていたクッキーを問答無用で朱羅の口に突っ込む。
「むぐ………」
斎の強引で唐突なその行動に朱羅は呆れ返り、反論する気も起きない。
「…テメェはそのウザさを先ず直せ」
「ウザくあっりませーん!」
「ふふ。皆楽しそうで何よりだね」
そんな賑やかなやり取りが、この後5分以上続いたのであった。


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