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朱羅がホームの仲間達に自分の過去や自分の血について話をした翌日
斎と瑪瑙は食材や日用雑貨の買い出しの途中、露店街と呼ばれるいくつかの露店が並ぶエリアにある顔見知りのアクセサリーショップ店の前で足を止めた。






 ACT.29  彼を変える"贈物"






「何か欲しい物でもある?」
斎は片手に抱えている買い物袋を少し横に動かし、アクセサリーを眺めている瑪瑙に問う。
「こういうの、朱羅君に似合うんじゃないかなって思って…」
瑪瑙がそう言いながら指差したのは、とてもシンプルな銀色のイヤーカフスだった。
「イヤーカフスか。アイツ、飾りっ気なさそうだからなぁ。美人なのに勿体ない」
「朱羅君、付けてくれるかな…?」
「瑪瑙からのプレゼントだったら付けるだろ、きっと」
にこりと斎は微笑む。
「…!そうかな…!」
斎のその言葉を聞くと、不安気に斎に尋ねていた瑪瑙の表情がぱぁっと明るくなる。
「―あ、でもね……えっと………」
「俺と瑪瑙からってことで朱羅にプレゼントしようか?」
「…!」
斎の言葉に、瑪瑙は目を丸くして斎を見上げる。
「斎君って本当に人の考えていること、お見通しだよね。吃驚しちゃった…!」
「実は俺も朱羅はもうちょーっと飾り気あった方が良いんじゃないかと思っててさ。まぁ…でもアイツ、瑪瑙からのってことでプレゼントした方が素直に喜びそうだけど。俺と瑪瑙から、何て言ったら一瞬止まりそうだ…」
「そんなことないよ。朱羅君、斎君のこと、本当に信頼してるし、尊敬もしているもの」
にっこりと微笑む瑪瑙。
「―え………」
瑪瑙の思わぬ証言に、斎は思わず頬を朱色に染め上げる。
「朱羅君、そんな風に私にお話してくれたよ?」
「え………そ、そう………なんだ………」
斎は目を泳がせ、頬を指で軽く掻きながら口篭もるように小声で反応を示した。
そんな斎を優しい笑顔で見つめた後、瑪瑙は再びイヤーカフスに視線を移し、言葉を続けた。
「でもこれ………高くはないし、飾り模様も何もないけど大丈夫………かな………?」
いざプレゼントすることが確定すると、瑪瑙は改めて少々不安になったようだった。
でもそれは、それだけ瑪瑙が朱羅のことを想い、朱羅に想いを寄せているということの現れだった。
「大丈夫だって!きっと喜んでくれる。なんてったって俺と瑪瑙からのプレゼントなんだから!」
斎は満面の笑みでそう言いながら、瑪瑙の頭を軽く撫でる。
「斎君がそう言ってくれるなら安心だね」
瑪瑙もまた、斎の笑顔と元気な声に安心し、普段の表情に戻る。
「それじゃあおっちゃん、これ1つ売ってくれや!」
「誰がおっちゃんじゃ!」
顔なじみの店主の男性は、斎にそうツッコミながら指定されたアクセサリーを小さな紙袋に入れる。
「お願いします」
瑪瑙が代金を手渡し、紙袋を受け取る。
「瑪瑙ちゃんは今日も変わらずかんわいいねぇ〜お姫様みたいだねぇ〜」
「ありがとうございます」
瑪瑙から代金を受け取り、それを後ろに置いた箱の中に入れながら、店主の男性は瑪瑙を見てそう声を掛けてくる。
「瑪瑙をいやらしい目で見るな!鼻の下伸び過ぎ!瑪瑙が穢れる!」
「うっさいわボケ。可愛い瑪瑙ちゃんに可愛いと言って何が悪い!」
店主は負けじと斎に言い返す。
「あーあーもうこれだからおっさんは!ほら瑪瑙!用は済んだしさっさと帰ろう!」
「えっと……それじゃあありがとうございました」
「有り難うな瑪瑙ちゃん!また来てなぁ瑪瑙ちゃん!来るのは瑪瑙ちゃんだけでいいからな!」
「うっさいわおっさん!」
「ふふふ」
気心の知れた者同士のやり取りに、瑪瑙は帰路につきながら笑みを零す。
「ったく。あのおっちゃんは瑪瑙瑪瑙って〜…」
「斎君とアルバさん、息がぴったりだよね、本当に」
「ああああああああ止めて止めて!あんなおっちゃんと息がぴったりとか鳥肌立つわ!」
「ふふ」
そんな他愛のない話をしながら2人はホームへと向かった。





ホームに着くと、斎と瑪瑙は買い物をそれぞれの収納場所にしまい、すぐに朱羅の元へ向かう。
「あ…あのっ………!」
ホームの奥にある押入れで中の整理をしていた朱羅に声を掛けたのは瑪瑙だった。
「ん…?」
後ろから声を掛けられた朱羅は手を止め、押入れから出てくると瑪瑙の前に立ち、小首を傾げる。
「―あっ…あの…ね。今日、お買い物をしていた時に見付けたお店で、これ…朱羅君に似合うと思って………」
瑪瑙は緊張した面持ちで朱羅に紙袋を差し出す。
「…俺に?」
「うん…!私と斎君から…!」
「中、開けてみろよ」
顔を少々赤く染めた瑪瑙と、にこりと笑う斎。
そんな2人を小首を傾げながら眺めると、朱羅は瑪瑙から紙袋を受け取り、中を開ける。
「………イヤーカフス………?」
紙袋を開けて中身を見た後、朱羅は中のアクセサリーを掌に乗せ、じっと眺める。
「そ。朱羅に似合うと思ってさ!朱羅、アクセサリーとかしなさそうだけどこんくらいシンプルなら付けてくれるかと思って」
斎は腰に手を当てながら言う。
「………」
「………嫌い………だった……?」
イヤーカフスを手にしながら無言でいる朱羅を見た瑪瑙は、不安げに尋ねる。
「―あ……いや、済まない。急だったから驚いただけだ」
ハッとした朱羅は瑪瑙を見つめ、答える。
「早速付けてみてくんね?」
「………」
斎の言葉に、朱羅はまた黙ってしまうが…
「…いや!朱羅さ!黙られちゃうと瑪瑙、また不安になっちまうだろ!」
斎はそんな朱羅に明るくツッコミを入れる。
「―有り難う。瑪瑙、斎。大切にする」
朱羅はそう答えると、紙袋の中にイヤーカフスを戻してしまう。
「…って付けないのかよ!」
「朱羅君………本当に無理、しなくていいからね?嫌いだったら嫌いって言ってくれていいから…」
そう言う瑪瑙はしゅんとしてし、肩を落とし、俯いてしまう。
何度も黙ってしまう朱羅を見て、優しい朱羅はハッキリ『自分の好みじゃない』と言わないようにしているだけだろうと、瑪瑙は感じてしまったのだろう。そのまま瑪瑙は黙ってしまった。
「いや、本当に嫌いじゃないんだ。嬉しい…」
「………」
「…済まない。俺個人の問題だったんだ。もう少ししたらちゃんと付けるから」
朱羅は俯く瑪瑙にそっと声を掛ける。
「なんだよ〜朱羅ぁ〜。まさか耳が性感帯だから無理〜とか言うんじゃないよな?」
「………」
「―………へ?」
自分のちょっとした冗談に黙り込む朱羅を見て、斎は間の抜けた声を発する。
「………マジ………?」
「……………」
「………性感帯………?」
1歩遅れてだが、瑪瑙も反応を示してしまう。
「………それ………も、原因のひとつではある………」
ぽつりと、朱羅は言いにくそうに小さな声で答える。
「マジかよーーーー!」
「煩い」
大声を上げる斎に、朱羅は睨みつけながら注意する。
「朱羅って耳が性感―」
「何度も言うな、駄犬」
「あだっ…!!」
声量を上げたまま朱羅の嫌がる言葉を発する斎の足の指先に、朱羅は思い切り足で踏みつけ、強制的に黙らせる。
「―え………あ、そ、そうだったんだ……!ご、ごめんなさい…!」
朱羅の意外な情報を知った瑪瑙は耳まで赤くし、あたふたとし始める。
「そ、それじゃあそれは付けられないよね…!ごめんなさい…!」
瑪瑙は慌てて朱羅から紙袋を受け取ろうと手を伸ばすが―
「―これはもう、俺の物なんだろう?」
「―っ……!」
さっと紙袋を後ろに隠す朱羅は、紙袋を返してもらおうとする瑪瑙にそう答える。
「付けるまでに時間は掛かってしまうかもしれないが………本当に嬉しかったんだ……」
「……朱羅君……」
朱羅の穏やかで柔らかく、でも何処か悲しげで憂いのある表情や言葉に、瑪瑙は伸ばしていた手を止める。
「―まぁ、無理に付けろなんて言わないけどさ…」
「斎はさっき付けろって言っただろう」
「だって見てみたいだろー普通。まぁでも本当に嫌いじゃないならいいけどさ」
踏みつけられた足の痛みが引いてきたのか、斎は屈めていた身体を起こし、朱羅に言う。
「朱羅君が付けたくなったらでいいし、もしそういう気持ちになれなかったら閉まったままでもいいからね」
瑪瑙はにこりと微笑む。
「誤解を招く反応をしてしまって本当に済まない…」
朱羅は微笑む瑪瑙を見ると目を逸らしながら謝罪する。
そして、力を込めて握られた朱羅の拳に、先程述べた原因以外にも朱羅がアクセサリーを身に付けられない理由があるのだと感じ、瑪瑙はそっとその手を握る。
「私の方こそ、突然のプレゼントで吃驚させてしまってごめんなさい」
「………」
そう、優しく語り掛ける瑪瑙と、手を握られ、顔を上げる朱羅を黙って見つめる斎だったが―
「―あれ、斎君…?」
黙ったまま、不意にその場を離れる斎に瑪瑙は振り返りながら声を掛ける。
「俺は残った仕事片付けてくるよ」
にこりと微笑みながら答えると斎は2人に背を向け、手をひらひらと振りながらその場を去って行った。
「―あっ……しゅ、朱羅君もお仕事中だったよね…!邪魔をしてしまってごめんなさい…!」
斎の言葉にハッとした瑪瑙は、朱羅がまだ仕事の途中だったことを思い出し、握っていた手を離し、少し距離を開ける。
「いや、もう少しで終わるところだったから問題ない」
朱羅は静かに答える。
「…あのね、私、後は夕飯の準備をするくらいだから…迷惑じゃなかったら朱羅君のお手伝い、してもいい…?」
「瑪瑙が大丈夫なら俺も助かる」
「!良かった…!」
朱羅が快く受け入れてくれたことが嬉しい瑪瑙は両手を合わせ、笑顔で喜ぶ。
「それじゃあ…瑪瑙は外に出してある物を俺に渡してくれるか?」
「うん!」
そうして2人は物置の整理を再開した。

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