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瑠架にエスコートされて白の車に乗り、朱羅はホームへと向かった。
体力が回復したとは言え、瑠唯による容赦のない性行為によって受けた身体へのダメージは完全に癒されてはいなかった。我慢をすれば問題はないが、特に腰へのダメージは大きく、勘の鋭い斎には腰が痛むことが知られたら直ぐに自分が誰に何をされたのかはわかってしまうだろう。
ホームを出てから4時間程が経った今、きっと自分が瑠唯の元に連れられて行ったことは斎にも、そして瑪瑙にも知られていることは確実だろう。
そんな2人に対し、身体の痛みを隠しきれるだろうか―






 ACT.31  素直に求めるということ






「それじゃあ朱羅、此処でいいかい?」
瑠架はホーム近くの少し広めの場所で車を停め、隣に座る朱羅に問う。
「はい。有り難う御座いました」
朱羅は瑠架に一礼すると、既に先に降りていた運転手によって開けられたドアから車外に出、運転手にも一礼する。
「別にホームの目の前まで送っても良かったのに。まぁ、朱羅が決めたのだから私は構わないけれど」
「お気遣い、有り難う御座います」
この礼は、ホームへ向かう車の中で無言のままでいた朱羅を見た瑠架が、彼は今、戻った後仲間達に事情をどう話そうか思案しているのだろうと察し、瑠架も朱羅に話し掛けることなくいてくれたことに対する礼でもあった。
「それでは私は失礼する」
車内に戻った運転手が朱羅が立っている側の窓を開け、瑠架は短くそれだけ伝えると再び窓が閉まり、車はその場を走り去って行った。
数分間、朱羅は去って行く瑠架の車を静かに眺めていた。
そして方向を変え、ホームへと脚を進めた。
此処からだとホームまで徒歩で7、8分程。短い時間ではあったが、身体の痛みを悪化させず、且つ痛み具合の確認も兼ねての丁度良いであろうと朱羅が考えた時間だった。
脚を1歩進めると多少身体が軋み、腰もズキ…と痛みはするが、瑠架がいれてくれた風呂やお茶が良かったのか、思っていたよりも身体への負担は軽減されていた。また、性行為特有の匂いも風呂や瑠架の部屋の香りによって上手く掻き消されているようで、朱羅が自分の匂いを嗅いでもわからない程だった。
そんな風にゆっくりとホームへと向かっていたその時、朱羅は自分の名前を呼ぶ声に顔を上げた。
「―斎」
目の前に立ち、朱羅を発見して名前を呼ぶと、斎は直ぐにこちらに駆け寄ってきた。
「朱羅…!お前、瑠唯さんに連れて行かれたって…!」
斎は眉を顰め、悔しさや怒りを感じる分かりやすい声の調子や表情を向けてくる。
「彼が俺に話があると言うから食事も兼ねて会って来た」
「………」
朱羅は斎を真っ直ぐ見てそう答えると、斎はそんな彼を見つめた後、腕を取って少し引き寄せると彼の首筋に鼻を近付け、匂いを嗅いだ。
「……薔薇と………カモミールの匂いがする」
「部屋と紅茶の香りだ」
朱羅は斎の行動を制止することなく、彼のしたいようにさせたまま答えた。
「……されたんだろ?」
「………」
朱羅と瑠唯の関係を1番よく知っている上に勘の鋭く理解も早い斎からこの質問がされることは分かり切っていた。
「朱羅に歪んだ愛情を抱いてるあの人が朱羅にしないはず、ないもんな」
「………済まない」
朱羅は斎から目を逸らし、顔を俯けてしまう。
「あの人のことだ。"一緒にこないと仲間を傷付ける"とかそんな風に脅されて嫌々ついて行ったんだろ?何で朱羅が謝るんだよ」
「…迷惑を掛けただろう」
「迷惑だとは思ってない。心配はしたけどな」
斎はそう言うと朱羅の腕を解放する。
「それで…身体の方はどうなんだ?大丈夫か?…ってうわ…」
斎は朱羅の全身を探るように一見した後、恐らく残されているであろう"跡"を確認する為、朱羅の首筋付近にある髪を軽く払うと眉を顰める。
「……やっぱな。大分濃く残されたな、跡」
斎は朱羅の首筋に残された瑠唯による鬱血痕―キスマークを見て低い声で言う。
「…目立つか…?」
「………あれだ。直ぐにホームに帰ってフード付の服に着替えればとりあえず大丈夫だろ。……って、そんな話じゃなくってだな―」
「身体は多少痛むが問題ない。心配掛けて済まない」
「………ったく…。わーった。でも無理はするなよ」
「ああ」
朱羅が再び大きく澄んだ菫の双眼で見上げてきた為、斎はそれ以上のことは言えなくなってしまった。彼の言葉を信じるしかないと感じたのだ。
「…瑪瑙は…?」
朱羅は少し逡巡した後、気になっていたことを斎に問い掛けた。
「今は要達と買い出しに行ってる。お前のこと心配してホームに残りたいとは言ってたんだけどな、ホームにいても心配するだけしか出来なくて瑪瑙もしんどいと思ってさ」
「…そうか。済まな―」
「だから謝るなっつの!」
「………」
既に口癖のようになってしまっているのだろうか。朱羅の口から謝罪の言葉が出掛った時、斎が直ぐに朱羅の言葉を遮った。
「最近は"ありがとう"も素直に言えるようになってきたけどさ、お前、謝ることも多いよな」
「………」
"済まない"の言葉がまた出掛ったが、朱羅はそれを飲み込み、黙った。
「"済まない"より"ありがとう"の方が俺達にも、それに朱羅自身にも良い言葉だと俺は思うけどな。勿論自分が悪いと思ったら素直に謝るのは良いことだけど、お前はちょーっと謝り過ぎだな!」
斎は明るい口調で話しながら、ぽんぽんと朱羅の頭を撫でる。
「…と、こんなとこで立ち話もなんだし、さっさと戻るか」
「―ああ」
朱羅の頭から手を離し、斎はそう言うと来た道を戻り始め、ホームへと向かう。
再びホームへの帰路を辿って2、3分程でホームが見えた。
「朱羅は一旦別な服に着替えて、後は優斗達の班のメンバーと一緒にホームの最終修理作業に混ざってくれ。元々のメンバー達や優斗達にはもう話してあるから」
「わかった」
「ああ、でも身体が辛いなら休んでいていいんだけど…」
「ありがとう、でも問題ない。それに、何かしていた方が気が紛れる」
「そっか。朱羅がそっちの方がいいなら問題ないか」
斎は朱羅の意思を尊重し、彼に伝えた指示をそのまま生かし、朱羅をホームの中に迎え入れた。



*



以前の襲撃で受けたホームの修理作業は朱羅が参加したことにより、夕刻前には殆どが完了していた。
壊れた部分を直すだけであればここまで時間は掛からなかったが、今後のことも考え、壊れた箇所を単純に直すだけでなく、少しでも強度をあげる為の修理作業を行っていた為、少々時間が掛かってしまったのだ。
「朱羅さん、お疲れ様でした」
ホームに戻って直ぐに首元が隠れる服に着替え、修理班に混ざって作業をしていた朱羅は同じ班の優斗に声を掛けられる。
「優斗もお疲れ様」
「ありがとうございます」
朱羅の労いの言葉に、優斗は優しく微笑んだ。
「―それにしれも、修理する為の材料費も馬鹿にならないのに一体どうやって調達したんだ?」
朱羅は修理を終えて片付けを始めながら周囲にある材料や道具を見てふと疑問が浮かび、それを優斗に投げ掛けた。
「斎さんの顔は広いですし、子供なのに凄くしっかりしててこの辺りの大人達からの信頼も厚いんですよ」
「…まさか、全部タダで貰い受けて来たのか…?」
「いえ。流石に全部タダで、というのことはないですが、それでも殆どはタダで貰い受けたものだったり、安価で売って貰った物ばかりなんですよ。凄いですよね、斎さん」
「…そうだな」
朱羅と共に片付けを始めた優斗と、彼の話を聞いている朱羅は周囲にある数多くの斎の手腕による成果を眺めながら感心した。
「最近はAsusaの支社も出来て、それに伴って住人やお店も増えてきていますからね。そういう所にも斎さんは顔を出しているみたいです」
「抜かりないんだな」
「だからこそ、僕達はこうやって生きていられるんです。斎さんは本当に、僕達の兄であり父なんです」
斎がホームのメンバー達から慕われていることは朱羅も以前から感じていたが、彼の存在がここの仲間達にとってどれだけ大きいのかということも、優斗の言葉や表情、声の調子ですぐに理解が出来た。
「斎は本当に信頼されているんだな」
「はい!」
普段は穏やかで声もそれほど大きくはない優斗だったが、朱羅の言葉に嬉しくなったのか満面の笑みで声を弾ませる。
「あ―」
突然、優斗は目の前にいる朱羅を通り越した箇所を見つめ、短い単語を発した。
「朱羅君…!」
優斗の視線の先―朱羅の背後に現れたのは、朱羅の身を案じて駆け寄ってくる瑪瑙だった。
「瑪瑙」
「朱羅君っ………瑠唯さんに連れて行かれたって………」
瑪瑙もまた、斎同様に朱羅と彼の関係を知っているが故に、そちらの方の心配をしていたようだった。
「…瑪瑙、心配を掛けて済まなかった。でも大丈夫だ」
「………」
瑪瑙は眉を顰め、朱羅を見つめる。
「………あの………」
優斗は目の前にいる朱羅と瑪瑙の雰囲気を汲んで、声量を抑えて様子を窺いながら声を掛けてきた。
「後はもう片付けだけですし、お2人でお話があるなら大丈夫ですよ…?」
「―え、あ……!ごめんなさい、私っ………」
状況がよく掴めておらず、朱羅が戻って来たと聞いて真っ先に駆けてきた瑪瑙は優斗に言葉を掛けられ、周囲を見て謝罪の言葉を口にする。
「邪魔してごめんなさい…!私、戻って―」
「優斗、今回は優斗の好意に甘えさせてもらう。ありがとう」
「え、……あのっ……」
その場を離れようと朱羅に背を向けた瑪瑙だったが、振り返り際に残った手を朱羅に掴まれていた。朱羅が何故そんなことをしたのか、少々混乱している瑪瑙には分からず焦っていたが、朱羅は至って普段通り冷静なままの彼の姿で優斗に礼を述べていた。
「いいえ。ごゆっくり」
にこりと優斗は優しく微笑み、瑪瑙の手を引いてその場を離れる朱羅に声を掛けた。
「あのっ……朱羅くん………!」
「瑪瑙の部屋、借りても構わないか?」
「え……?」
「初めから瑪瑙や斎に隠せるかどうかなんて考えていた時点で俺は間違っていたんだ」
「…朱羅君……?」
廊下を進んでいた朱羅はそこで脚を止め、瑪瑙を真っ直ぐ見つめる。
「瑪瑙とは、ちゃんと話がしたいんだ」
「………朱羅君………」
自分の手を優しく、力強く握り締め、真っ直ぐ見つめながら話す朱羅を見て、瑪瑙は彼の行動の意図が分かり、落ち着きを取り戻す。
「うん。私の部屋でお話しよう」
瑪瑙は目を細め、優しく暖かい笑顔で朱羅に答えた。

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